[窓の外]

「相談したいことがあるんだけど」
そう話しかけてきたのは、まだろくに話したことも無いクラスメイトだった。
新学期のクラス替えがあったばかりで俺もそう社交的な方ではなかったから
まだ名前もおぼつかないクラスメイトに相談を持ちかけられるのは妙な気がする。
「ああ」と返事をしてからなんとなく相談内容の察しがついた。
実は俺は少々霊感があったりする。
といってもそんな大したものではない。
霊が見えたり祓えたりできるわけでもなく、ただ嫌な感触を感じられるだけだ。
こいつがそんなことを知ってるはずも無いがまあ誰かから聞いたんだろう。
以前肝試しでちょっとだけやらかして俺の霊感は仲間内では有名なのだ。
案の定その相談とは怪談の類だった。
「実は俺一人暮らししてるんだけどさ、ここ何日かその、窓にな」
要約すると、幽霊が出て困ってるらしい。
ある日テレビを見てるときにふと視線を感じてカーテンの隙間を見ると
窓の外から長い黒髪の女がこっちを見ていたんだそうだ。
あわてて隣の部屋に逃げ、しばらくして様子を見るともういなかった。
別の日にまた視線を感じてカーテンを開けると、またそいつがいたという。
「俺もう怖くてよ。頼むから今晩泊まりに来てくれないか」
実際行ったところで何が出来るわけでもなさそうだったが
俺は友人の家に泊まりに行くということに魅力を感じて受けることにした。

日が暮れるとそいつはだんだん落ち着かなくなってきた。
知らない人間と言ってもいい俺に相談するぐらいだからそうとう追い詰められていたんだろう。
ちょっとかわいそうになって俺はわざと明るく励ました。
「大丈夫だって。今だって何も感じないし、こういうのは平然としてたら出てこないもんだ」
そう。俺は家の前、部屋の中まで入っても何も感じなかった。
おそらく見間違えか何かで先入観を持ってしまい、それ以後もそれらしいものを
無意識のうちに探して当てはめてでもいるんだろう。
一緒に過ごして安心させればそのうち消えるはずだ。
例え何か出たところで俺には慣れのせいか平然としていられる自信があった。
楽観的に考えているとそいつが急にビクッと体を振るわせた。
「な、なぁ。また見られてる気がするんだが、頼む、お前カーテンの裏を確認してくれないか」
言われても俺にはやっぱり何も感じられなかった。
やはり少々神経質になっているんじゃないだろうか。
まあこれでカーテンを開けて笑ってやればこいつも安心するだろう。
そう考えてカーテンの外を見ると、そこに“そいつ”がいた。
長い髪。白い服を着た女が、血走った眼を見開いてこっちを見ていた。
「うあああああああああああ!!」
俺は無我夢中で玄関を飛び出し駆けた。
クラスメイトも後ろから付いてきている。
コンビニの明かりの前までついて俺たちはようやく一息つくことが出来た。
「や、やっぱり居ただろ?どうしよう。俺霊に呪われてるのかな」
まだ勘違いしたままにこいつに俺は言った。
「馬鹿野郎!あれは生身の人間だ!」


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