[バアサンの憎悪]
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その時、何かふと違和感を感じたんだ。
恐る恐る薄目を開けたら、俺のベッドのカーテンを少しだけ開けて
俺を覗き込むバアさんの、ひんむいて丸々とした目玉が見えた。
すんっげぇ見てる。俺を。
首をひょこひょこと動かしながら、俺の様子を伺ってる。
冗談じゃない、怖すぎる。

「○○ぅ〜」

俺の名前じゃなく、おそらく息子の名前を呼ぶ。
違います、俺は○○じゃないですよ!
飛び起きてそう言いたかったけど、怖くて出来ない。

「○○ぅ〜、にくいいい」

バアさんがしくしくと泣く。
頼むから俺を見ながら泣かないでくれ。怖い。

「○○ぅ〜、おめさん、死ぬぞぉ〜」

怒っているのだろうか、声が震えている。

その後バアさんは、息子への悪口を俺に向かってしこたま吐き出すと
自分のベッドに戻り、ゴニョゴニョ言ったあとに
何か小さいモノを数個カーテンに向かってぽすっ、ぽすっと投げつけ、
静かになってグーグー寝ちまった。

ちょうどこの明くる日が俺の退院日だった。
入院生活の最後の最後に、もっとも恐ろしい目に合った。
とりあえず俺はこれを最後にバアさんの呪縛から助かったのだが、
俺が居なくなったので、きっと別の患者が何らかの被害にあってるだろうと思う。

そして最後に、バアさんが俺のベッドのカーテンに投げつけたものが
「 歯 」 であることが退院する時に分かった。
バアさんの口元は血だらけ、カーテンの下には黄ばんだ細い歯が数個…
もう絶対に入院なんかゴメンだと思った。


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