[四つ爪の熊]
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妻は子供を本妻に預け、(旦那と本妻の間には子供が出来なかったので、妾を貰っていて、子は妾との子なんです。)夫の弟達と三人で山へ上った。
妻はカヤの束に火を着け、弟達は槍を構え進んで行くと、犬が小声で鼻を鳴らしだした。
明かりを掲げて辺りを見回すと、薄く積もった雪の上が血で染まっていた。それが熊の物か夫の物かは判らない。
だが、木の枝にぶら下がった人間の腸を見て夫が殺されたことを悟った。

二人の弟は槍を構え慎重に、妻は明かりを絶やさない様次々とカヤの束を燃やしながら進んだ。
しばらく行くと草むらから、「パリッ、パリッ・・・」と熊が何か食べている音、骨を噛み砕いている音が聞こえる。
妻は恐怖した。しかし夫の仇に負けるかと思いいっそう明かりを強くし弟達の足元を照らす。
上の弟が草むらに近づき「化け物熊よ出てこい!兄の仇を打ちに来たぞ!!」と怒鳴ると、食べる音がぴたりと止んだ。
四つ爪熊は立ち上がり、二足歩行で向かってきた!
その化け物熊の迫力に圧倒された下の弟は、5、6歩後ずさりしたが、ハッと向き直り、熊を目掛けて突進する。

上の弟は大きく開かれた口へ、下の弟は心臓目掛けて一気に突き刺すと、大きな熊はどっと倒れた。
何度も槍で突き刺し完全に息の根を止めると、辺りを探してみたが、
やはり夫の姿はなく着物の切れ端や骨の一部が散らばってるばかり。

三人は泣きながらそれらを集めると三分の一程しかなかったという。
妻はあの朝、子供が父の身を案じ必死に引き留めていたのにそれに気付かなかった事を悔やんだのだった。


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