[終わらない夢]
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やっと現実に戻った。俺は恐怖にあえぎながら目を開く。
そこは。またしても。廃屋の入り口だった。
ぞっと、全身の毛が総毛立つ。
何度、繰り返す?いつ、この夢は終わる?もう、恐怖に気が狂いそうだ!
誰か、俺の目を覚ましてくれ!夢から出してくれ!
体が勝手に廃屋を進む、駄目だそっちは駄目だ女に近づくな女に触れるな、
今すぐそこから逃げ出せ、くそ、メールなんか見てる暇はない!
『あけみ』『つきし』
弾かれたように目の前の腐った両手を弾いた。やっと、体の自由を取り戻す。
振り返って逃げる。背後に気配が迫る。さっきよりもずっと近い、畜生!
廃屋から駆け出すが、覚醒の感覚はない。今度は逃がさないつもりかよ!
足がもつれる、心臓が破裂しそうだ、ひたすらに森の小道を駆け上る。
少女はすぐ後ろまで追いついている、畜生、畜生、逃げろ、駆けろ。
気配がすぐ首の後ろだ。ぞっとした。瞬間、心臓が止まったような気がした。
走りながら後ろを振り返ると、腐汁を垂らしながら裂けた大きな口が・・・

「うおおおおお!」
絶叫だった。今度こそ完全に目覚めた。ベッドから上体を起こした。もう寝ない、絶対に寝ない。
心臓はまだばくばくと興奮し、全身汗だくだ。今のは夢じゃない。もっと恐ろしいものだ。
もし、逃げ切れなかったら、どうなったのだろう?
考えるとますます恐ろしくなった。思わず携帯に手を伸ばした。
寝ては駄目だ、彼女にでも電話しよう、誰かと話して、もう今夜は寝ないでいよう。
その時。携帯に着信があった。メールだ。おい、待て、まさか。
『あけみ』「・・・馬鹿な、そんなのって無いだろ・・・」当然のように二件目を受信する。
『つきし』「うわあああ!」叫んだ。もはや止めようもなく世界は暗転した。

衝立に手をかけている。土間を覗き込もうとしている。
もう、駄目だ。致命的で絶望的な何かを越えた。逃げ切れない、そう思った。
少女を抱き起こす。携帯はまたしても謎の二件を受信する。
『あけみ』『つきし』
「なんだって?」三件目だ。今までに無かった、三件目のメール。漢字一文字だった。
『骸』
少女が掴みかかる。三件目を見ていた俺は、反応が遅れた。それはきっと致命的な遅れ。
今までは振り払えた手が払えない。少女の腐った右手が、俺の左手をきつく掴んだ。
少女は、きっと、笑った。腐った口の両端を吊り上げて。そしてそのまま口が裂けた。
大きく口が開く。俺の喉笛を食い破ろうとしているのだろう。

俺は、不思議にも冷静さを取り戻した。少女に掴まれている左手。掴まれている。
しっかりと、食い込むほど強く掴まれている。この感覚は知っている。
現実の世界で、何万回と繰り返した感覚だ。鍛え抜いた、あの型だ。なら、いける!!
鼻からの吸気を一気に丹田に落とし込む。身体は既に自然体。恐怖はかき消えた。
化け物の首筋に右の手刀を打ち込みつつ、左半身を捌きつつ落とし込む。
座技・片手取り引き落としの呼吸投げ。俺の最も得意とする技の一つだ。
化け物だろうが、力を持って制しようとするなら、合気は負けない!
少女は俺に食いかかろうとする勢いそのままに宙に浮き、壁際のガラクタの山に突っ込んだ。
即座に立ち上がり、構えをとる。未だ起き上がらない化け物の背に一喝した。
「さっさと来やがれ!」

目が覚めた。さっきまでの追い詰められた覚醒ではない。毎朝どおりの普通の目覚めだ。
気分は、相変わらず最悪だったが、もう、今の悪夢を見ることは無いだろうと感じた。
メールに『あけみ』と『つきし』の受信履歴は無かった。
どこまで夢だったのか、あるいは元から夢では無かったのか、もう分からない。
『あけみ』『つきし』『骸』の意味も不明。「あけみつきし」はググってみたが分からん。
原因は全く不明。昨日の日中、有名な某心霊スポットに行ったが、関係はないと思う。
意味が分からないうえに、オチがヘンテコですまん。がマジで怖かった。
と、合気道やっててよかった。以上、長文すまん。


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