[目を合わせると]

こないだ聞いた会社の先輩の子供の頃の体験談が死ぬほど怖かったんで。
以下、先輩を「俺」として話を進めたいと思う。

山間部に住む俺の婆ちゃん家の近くには川があって、毎年夏休みに遊びに行くと、その川でサワガニやタガメなんかを捕まえて遊んでいた。
夏の午後、その川で遊んでいたのだが、ふと気付くと、周囲には誰も居なくなっていた。
急に不安になったので、帰ろうと思い、家路を急いでいたら、川から婆ちゃん家までの小道(一本道)で、
白いワンピースを着て麦わら帽子を被った見知らぬ若い女性が、婆ちゃん家の方から歩いてきた。
誰だろうと思って、すれ違い様にその顔を見たら、それはとても綺麗な女性だった。
女性は俺の顔を見ると、クスッと微笑んで、涼しげな眼差しで俺を見ていた。
俺が婆ちゃん家に着いたところ、何故か家では葬式が行われていた。
俺は、それが自分自身、即ち俺の葬式である事を直感的に悟っていた。
…というところで目が覚めた。
実に気味の悪い夢だと思ったが、その夢の事はすぐに忘れてしまった。

それからしばらくして、夏休みになったので、俺はまたいつもの様に婆ちゃん家に遊びに行った。
そしていつもの様に川で遊んでいた。
随分長い事遊んだので、そろそろ帰ろうと思い、小道をテクテクと歩いて行くと、
前方から白いワンピースに麦わら帽子の、妙齢の女性が歩いて来る。
その瞬間、俺はそれまで忘れていた、例の夢の事を思い出した。
そのこの光景は、あの夢で見た光景とそっくりだったのだ。
俺は直感的に『あの女の人を見ちゃいけない!』と思い、女性から視線を逸らしながら歩いた。
女性と俺との距離は次第に近付いて来る。俺は顔を背けながら歩いて行く。
そして、遂にすれ違ったその瞬間。
その女性が、低く呻く様な、恨めしそうな声で、一言だけ、こう言った。
『ど う し て 知 っ て る の よ …』

俺は恐ろしさのあまり、駆け出した。背後から襲われるのではないかとの恐怖心から、力一杯走った。
そして、婆ちゃん家に辿り着くなり、庭で洗濯物を干していた婆ちゃんに思わず抱きついた。
婆ちゃんと、一緒に来ていた母に、以前見た夢の事を含めて全てを話したのだが、二人とも笑い飛ばすだけだった。
あれは一体何だったのだろうか?あの女性は一体何者なのか。
全てが謎だが、今でも俺がこうして生きていられるのは、あの時女性と目を合わせなかったからだと、俺は信じている。

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