[油]
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俺としてはそのMの方が洒落にならんくらい怖かった。
で、せっかくない金絞って奢ってやったんだからと強引に進めて食わせた。
それがまずかった。Mがトイレに駆け込んだかと思うと食ったものを全部
もどしてきた。(食事中の方スマソ)店員もびっくり俺もびっくり。
で、涙目で席について、俺にいきなり
「家族で油とか売ってるやついる?」と聞いてくる。油?ごま油とか?
いやコンビニには売っているがな、母は化粧品売ってるが。なんて
返事をしながら、俺は妹がガソリンスタンドで
アルバイトしている事を思い出してMに言った。
途端に、耳鳴りが酷くなった。
今まで普通の耳鳴りレベルだったのが
耳元で楽器を鳴らされているような大音響。
正直鼓膜が破れそうで目が充血していくのが自分で分かった。
意識が飛びそうになるのと、同時に、Mが俺の目の前で大きな音を立てて
手を叩いた。店員びっくり、俺もびっくり。同時に音が止んだ。
俺が耳を押さえて目の前が真っ白になっている
間にMが店員に頼んだらしい水が目の前にコップ3、4杯あった。
何かと訊ねるよりも早く、Mがその水をわざとこぼし、
駆けつけてきた店員に「あ、すみません、大丈夫です」とか言っている。
何が大丈夫なものか。俺のほうにこぼされた水は見事にズボンに直撃し、
漏らしたかのようになってしまったではないか。
それでもMは大丈夫大丈夫なんて言いながら水を全部こぼしてしまった。
当然店員は嫌な顔をしたがM全く気にしていない。

店を出て、耳鳴りがしない事に気付いた。あれはいなくなったらしい。
Mに事情を聞くと、口元を押さえながら「間近で見るのは初めてだったよ」
とか誤魔化しやがった。ついでに「妹さんに聞いてみ」という。
家に帰って妹に最近職場で何か変わったことがなかったかと聞いた。
初めのうちは何もなかったと言っていたが
(おそらく忘れていたか話したくなかったんだと思う。実際に
事があったのは9月の終わりか10月の初め頃だったらしいから)
しつこく訊ねると妹の職場で売ったガソリンで焼身自殺をした人がいる、
という事件があったらしい。黒い影と、
耳元で聞こえた潰れたような声の正体に気付いた俺は、
トイレに駆け込んで朝マックの残骸を吐いた。

ちなみにズボンはマックを出て数分もしないうちに乾いていた。

長文で失礼した


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