[トンネルにて]
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中央が妙に開いている記念写真を撮った後、Tさんが「撮れたか?」と言っていた。
それに「う〜ん、五分五分だね。」と返す先輩。
慌てて「Yさんて、ひょっとして・・・。」と言おうとしたが、Tさんは俺が全部言い終わる前に言った。

「Yは霊を呼び寄せる体質だから、皆罰当たりなことはすんなよ〜w」と、

もうこの時点で俺は帰りたかった。当たり前だ。”霊感がある”ならまだ頼もしい気もするが、
”呼び寄せる”人とこんな所にいるなんて考えたくもない。そのシチュエーションに現実に直面しているのだ。

その後もトンネルを二往復ほどしたが、何度か嫌な目にあった。
「いるいる」などと言っては写真を取りまくる先輩。
目の前に現れた青い光、雨が降ったような「ザー」という音。外に出てみると、車には水一滴ついていなかった。
小さなライトの光を追うことが怖くなり、かといって暗闇を見つめるのも怖かった。
もうウンザリした俺はついに「帰りましょうよ!」と今日始めて泣き言を言った。
普段のこのコンビのノリなら、きっと俺の後ろに向かって「出たー!」と叫び、一目散に走り出すはずだ。
俺はそれを覚悟して、絶対にビビらないぞ、と腹を括っていた。
しかし2人は顔を向け合って「わかった。」と呟いた。心持ちTさんは顔色が悪かった気がする。
再び車に乗り込んだ時は、本当にホッとした。まったく酷い目にあった。
しかし、本当に怖いのはここからだった。

帰り道、突然俺の中に悪寒が襲った。
なんというか、心臓が冷え切ってしまったような、嫌な感じだ。
「お前らさぁ、今変な感じしなかった?」
ふと先輩が呟く。
Mを見ると、冷や汗をかいていた。目が合うと、俺もコイツと同じ表情をしているのがわかった。
「・・・わかります?」
もう怖くて怖くて、こう聞くのが精一杯だった。
だが、さらに俺たちを絶望の淵に追いやる一言が先輩から発せられた。
「うん、だってシートの真ん中にいるもん。」
恥ずかしい話、俺はこの時少し漏らしてしまった。
俺はそれを認めたくなくて、大きな声で叫んだ。
「アンタに何がわかるんだ!もういい加減にしてくれ!!」
青年会では決して使ってはいけない、年上への暴言。
「じゃあさ、お前らなんでそんなに真ん中開けて座ってんの?」
後部座席に座っている俺たちは、2人にしてはやけにシートの中央部分を開けて座っていることに気付いた。
「さっきの事は、黙っててあげるから。」
先輩は微笑を浮かべた


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