[テレポの代償]

前頁

そんなことも忘れていたある日、2回目の事件が起きました。
その日は学校でいやな事があり、私は家に着くなりただいまも言わずに部屋に飛び込みました。

そしてポケットに入っていたタバコをつかむと、思いっきり部屋の壁に投げつけました。
10秒くらい後かな。私は違和感に気付いた。そして嫌な汗がどっと溢れてきました。

(音がしない)

あんなに力いっぱい投げつけたのに?タバコは?
私は数ヶ月前の赤ペンを思い出し、反射的にロフトの階段を駆け上がりました。

やっぱり、というか案の定タバコはロフトの上にありました。

真ったいら。言葉のあやじゃなく、本当に紙のようにひらひらに変形したタバコが無造作に投げ出されていました。
急いでそれを丸めて捨てると、私はタバコが当たったであろう壁に手を当てました。
ただの壁でした。

その日から、ソレは頻繁に起こるようになった。
消しゴム、画鋲、眼鏡。
消える物に規則性はないし、消える「位置」もそれぞれ違う場所だった。
でも、それらのものが必ずロフトに出てくること、そして何らかの形で変形している点は共通していた。

もちろん親には言った。
でも、当たり前だがあまり取り合ってもらえなかった。

そのころから、私は一つの恐怖を感じていた。
(もし、次に消えるのが自分だったらどうしよう)
その場合も、やはり私は変形して出てくるのかな。そんな恐怖だった。

そんなとき、最後の事件が起こった。

その日は、親戚のおばさんが遊びに来ていた。多分、日曜だったと思う。
おばさんはやっとハイハイが出来るようになったくらいの、二人目の息子さんを「披露」しにきてたんだ。
私は、私の母と、そのおばさんと三人で居間で話してて、赤ちゃんは、そのお兄ちゃんと廊下で遊んでた。

そのうち私たち三人は、というかおばさんと母は、すっかり話しに夢中になってしまった。
私は話しに入れてなかったけど、中座するのも気まずいと思って、なんとなく座ってた。

その時だった。

「ぎゃああああああぁぁっぁぁあっぁ!!!!!」

突然物凄い赤ちゃんの泣き声が、ほとんど絶叫に近い泣き声が響いた。
悲鳴は私の部屋からだった。私たち三人がかけつけた時、上のお兄ちゃんがきょとんとして一人でたちすくんでいた。
おばさんはお兄ちゃんの肩をつかむと「しんちゃんは!?しんちゃんは!!?」と、
半狂乱で繰り返していた。

「しんちゃんね、消えちゃったの!急に!」

私はその言葉を聞き終わらないうちにロフトに駆け上がっていた。
物凄く長い階段に感じたのを覚えてる。
(人の形をしてますように)
今思えば、物凄く怖いことを祈っていた。

そして赤ちゃんは、やっぱりそこにいた。
私の心配をよそに、気絶しているものの赤ちゃんはどこも変形していなかった。

そのときは心から安堵したのを覚えてる。
やっぱり生き物は例外なんだ!と思った。

「しんちゃん!」私は赤ちゃんの手をつかんだ。その瞬間。


ぐにゃり


赤ちゃんの手が、ありえない方向に曲がっていた。

その後のことはあまり覚えてない。多分呆然としてたんだと思う。
実は新ちゃんがその後どうなったのかもわからない。
その事件以来、おばさんがたずねてくることはなかったし、何よりうち直ぐに引越し
たので。
ただ、事件から何日かして、私が掴んだ新ちゃんの右手は「粉砕骨折」とだけ聞いた。

ここでもう一度聞きたい。あれはなんだったのか。私は怖いです。
あれ以来、もうそれは起こってないけど、いつかまた同じことが起きるんじゃないか。
それまで当たり前の床だったところが、突然口を開けて私を飲み込むんじゃないか。
そうしたら、私はどこから出てくるのだろうか。
次もまた人の形をして出てこれるだろうか。
私は怖いのです。


次の話

Part147menu
top