[秋の夜長]

秋だから当たり前だけど、家の回りで虫の声がずーっとしてるわけだ。
家なんかとくに田舎だから、晩夏あたりからは窓開けるともう目覚ましみたいになってるのな。
「リーリー」だか「ガシャガシャ」だかうるさくて仕方ない。
こんな中じゃとても眠れやしない。
だから少々暑くても窓閉めて扇風機つけて寝るしかないんだ。

しかし今年は特にひどくて今も窓開けると頭がガンガンするくらい鳴り響いてるのな。

で、この間びっくりしたのが「リーリー」とか「ガシャガシャ」に混じって
変な音が聞こえてくるのよ。
「ウォアー」だか「ウンンンー」だか知らないけど。
「何これ?」って思ってたら今度は「シュー」って音がしてくるのね。
新種の虫?そんなはずないよね?とか思ってたんだが、
ともかくその日はその変な音がずーっとしてた。
一晩中してた。徹夜でテスト勉強してたから間違いない。
で、その次の日の夜なんだが、音が昨日よりデカくなってた。
最初は音の主が巨大化したのかと思ったが、
途中で気付いた。音の位置が近くなってるんだ。
前の日は結構遠くの方で響いてる感じだったんだが、
なんかこの日は向かいの家くらいからしてる感じだった。

その日は徹夜はしてないんだがやっぱり「ウォアー」とか「シュー」とか
わけのわからない音が虫の声を掻き消すように鳴り響いてたんだな。
おそらくその日も一晩中やってたんだろうと思う。
で、次の日。案の定、といえば案の定なんだが、
音が近づいてる、というか家の庭で始まったんだな。
音が始まった瞬間、うちの犬がめちゃめちゃびっくりしたように吠え出した。
だけど、音はお構いなしに、ウォウォシューシュー言ってるんだ。
流石に恐いって。
隣ん家とかならまだいいんだけど、やっぱすぐそこでやられたら困るよ。
本当は布団被って寝たかったんだが、
やっぱり人間だから音の正体を見たい恐いもの見たさもあった。
迷った末に、恐る恐る窓の外を見た。

デカい虫とかいればまだよかった。
幽霊でもまだよかったかもしれない。

目が血走ったおっさんが狂ったように殺虫剤でその辺の虫を殺しまくってた。
「ウォウォ」だかなんだかわからなかった言葉の意味は「うるさい!」だとわかった。
虫がうるさいって言って一匹一匹殺してるのよ。
恐かった。めっちゃ恐かった。

次の日庭に死骸がいっぱい落ちてた。

まあお陰で今窓開けてもそんなに虫の声しないんだけどね。


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