[鬼]
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「お主等が”導いた”のは人の姿をした鬼じゃ!」
訳が判らない
あの可愛らしい娘が鬼などということは考えられなかった
「嘘じゃ!お前らのいう事が信じられんわ」
「・・・・お前ら。この冬山で只の娘が、どれ位彷徨うて生きていられると思うか?」
「・・・・・・」
「その娘、当に死んでおるわ。目は?体は?生気はあったか?」
男の言葉ががんがんと響く
言われてみれば思い当たる節はある
長は続けて言う
「皆殺しにした村の中から都合の良い人間を見つけると中に入り込んで、次の村を襲う
村々には悪霊避けの護符がある所が多く、人の姿を借りると共に、”導いてくれる”人間が必要」
それを聞いた職人達はとんでもない事をしてしまったと言う恐怖に染まった
言葉もない
慌てて戻ろうとする男を長が止める
「・・・もう遅い。二日も経っているのだろう・・・・今回も間に合わなかったか・・・!」
無念そうに呟く
職人達にこの土地から離れるように告げると、彼らは無言のまま村ヘと向かった
鬼を追うために・・・
職人達はただ呆然と立ち尽くすだけだった
この村の資料としては、郷土資料館の地下書庫に眠る”仏黒山村 記”にのみ記されている

「村の住人は誰も居なかった
忽然と一人も残らず消えていた
犬もネコも牛も馬も、何も居なかった
ただ、彼方此方にこびり付いた血の痕が、ここで何かがあったことを告げていた
村の住人が戦った様子は無い。しかし、固まっている血溜まりから見ても、明らかに殺された形跡はある
死体も無く、ただ何もかも消え去っている」

当時、この地方を治めていた領主に当てられた報告としては、これ以上の事は書かれていない
恐らくは盗賊の類に殺され、生き残った者も死体ごと連れ去られたのだと考えられた
戦国の世の中で、山奥の小さな村が消えてなくなる事自体はさほど珍しい事ではなかった
しかし、それらの真相が明らかになる事もまた、無かった

炭焼き職人達のその後は、杳として知れない


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