[結界も考えもの]

 ある時、霊感のある友達に、言われたことがある。
「お前の部屋ヤバい。部屋の四隅に盛り塩して、結界張れ」

 ――言われたとおりに盛り塩をして二日後、
深夜二時を少し回った辺り、ふいに音が鳴り出した。
ピシッ! パシッ! って音が徐々に大きくなる。
うるせぇなぁ……くらいにしか思っていなかった。

 音は止まない。段々イラついてきた。
音の出所を探ると、どうやら窓の外から鳴っている。
俺の部屋は三階。窓の外にベランダはあるが、外から人が登れるわけがない。
盛り塩効果か、そいつは部屋には入ってこないらしい。
窓に歩み寄って、一気にカーテンを開けた。

 そこに子供がいた。
今になって思い返して、背の高さから子供と判断したんだが、自信は無い。
その記憶が確かなものかどうかも、自信は無い。
そいつを見た瞬間、俺はトイレに飛び込んで、吐いたからだ。
ひとしきり吐いてから、部屋に戻ると、もうそいつはいなかった。

 きっと、結界に無理矢理入ろうとしたせいであんな風になったんだと思う。
そいつは身体を窓に押し付けていた。
結界に切り取られて縦半分になった身体の中身が、
ガラス越しにぐちゅぐちゅと蠢いていた。

 あれ以来、盛り塩はしていない。
あんな物をもう一度見るくらいなら、そのまま入って来られた方がマシだ。


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