[樹海]

私はゴールデンウィークを利用し、家族サービスをすることにしました。
 妻の希望により、家族揃って、ある有名な樹海を見に行ったのです。
 しかし、樹海の遊歩道を歩いている途中、息子が居なくなっていました。
 それで私と妻は息子を心配し、懸命に探したのです。
 でも遊歩道には、息子は居ないようでした。
 時間が経つにつれ、次第に辺りが暗くなってきます。
 とうとう私と妻は、自分達だけで息子を見つける事を諦め、警察に捜索願を出しました。
 私と妻が、息子に会う事が出来たのは翌日の朝です。
 「樹海の奥深くで、息子さんが見つかりましたよ」
 「どうやらお父さんと間違って、違う人に付いて行ったようです」
 「怪我もなく元気ですから、ご安心下さい」
 警察の人は、そう言っていました。
 息子に会えた時、妻は泣きながら息子を怒鳴りつけます。
 私はそんな妻をなだめながら、息子を抱きかかえて喜びました。
 そして息子に、「もう変な人に、付いて行ったら駄目だぞ」と言ったのです。
 ところが息子は、こう言いました。
 「変な人じゃなかったよ」
 「後ろ姿がお父さんに似てて、とっても優しい人だった」
 それから、数ヶ月後の事です。
 いつものように家族3人で、夕食を食べている時でした。
 あの樹海で「死体が発見された」と、ニュースが流れたのです。
 死体は随分と時間が経っており、白骨化していました。
 しかし、所持品から身元がすぐに判明したそうです。
 亡くなった方の写真が画面に映った時、息子はこう言いました。
 「あっ、僕はこの人に付いて行ったんだ」
 「優しい人だったけど、お腹が空いてて寂しそうだった」
 その時から私は、「山姥や雪女は、本当に居るのかも・・・」と思うようになりました。
 山姥や雪女の正体は、山で亡くなった人の霊なのかもしれません。
 息子が見た、幽霊のように・・・。

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