[恨みの本]

小学生の時から怖い話は大好きだから、いろんな物や人からそれ関係の情報を集めていた。そんな時、聞くと必ず後悔する話があるという噂を友達から聞いた。誰が知っている?
と尋ねたら、その時担任していた先生から聞けると教えてくれたので、俺はその先生に噂の話を職員室まで聞きに行った。
初め、先生は取り合ってくれず、なかなか話してくれなかった。それでもしつこく粘って交渉していると、先生はヒントだけやると言った。

「俺がこの小学校に転属されたばかりの頃は、下校時間過ぎてからの仕事を教室でやっていたんだよ。だけど、ある先生からその教室の隣にある図書室の話を聞いてから、下校時間過ぎたら仕事は職員室でやることにしたんだ」

どうして?と聞くと、

「それは言えない。とにかく、恐いことが起きたんだよ。図書室でな」

それっきり、先生は教えてくれなかった。
それから小学校を卒業して中学にあがった時、同じ小学校にいた友達に図書室についての話を聞いてみた。

「図書室?あぁ、その話か。あそこの部屋は、昔は外側からしか鍵をかけられなかったんだよ。
でも今は内側からでも鍵をかけられるようになっていただろ?その理由っていうのがさ、
夏休み前に図書室で熱心に本を読んでいた女子生徒がいたんだけど、夏休みって誰も図書室を使わないから警備のおじさんが鍵を閉めに来たんだ。
中を覗いてみると誰もいなかったから、おじさんは外側から鍵をかけた。
だけど本当は柱の裏にまだ女の子がいたんだ。
でもその子も読書に夢中で、鍵をかけられたのに気が付かなかった。
気付いたのは、その本を読み終えた後。その時は日がだいぶ落ちていた。
その子の両親も娘の帰りが遅いことが心配になって警察に捜索依頼を出したんだけど、まさか学校の図書室にいるとは考えつかなかったんだ。
で、事件なのか事故なのかわからないまま学校の夏休みが終わり、その警備のおじさんが図書室を開けて、ようやくその子が見つかったんだ。腐乱死体となってね」

そこまで友人から聞いて、俺は不思議に思った事があった。
なぜ、こいつがその事件の事をこんなに詳しく知っているんだろう。
それを尋ねると彼はこう言った。

「この話には続きがあるんだよ。人間は食料と水がないと生きていけないけど、すぐには死なないだろ?
その子は死ぬ前に、何をしていたと思う?『恨みの本』を書いていたんだよ」

自分が読んでいた本に鉛筆で、図書室に閉じこめられたところから死ぬまでの自分の様子を事細かに書いたんだ。文字と文字の合間に小さい文字で書いていたんだ。それでな、その本は今でもその図書室にあるらしいぜ。
その子が何を思ってそんな事をしたのか、気になるだろ?その子はさ、自分が誰に閉じ込められたかわからなかったけど、こんな目に遭わせたその人をすごく恨んでいた。
だから、恨みの本の最後にはこう書いてあるんだ。

『これを読んだ人は、私の代わりに私を閉じ込めた人を殺してください。もし、そうしないとあなたは夢の中で私に殺されます』

ってな」

そこまで聞いて俺はまさか、こいつはその恨みの本を読んだのでは?それを訊いてみると

「違うよ。俺は先輩から聞いたんだ。でもこれって、人に話すだけでも伝染していくみたいだから。これで俺はもう安心だ」
彼はニッコリと満足そうに笑った。その時、ようやく俺は聞くと後悔する話という意味がわかった。
当時の俺は完全にそれを信じてしまい、周りの人にやたらとその話を広めた。


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