[大水難]
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同居し始めた頃は塞ぎ込みがちだったSさんも
優しい祖母と暮らしていく内に少しずつ元気を取り戻し
N先輩と付き合い始めたことでより一層明るくなりました
しかし人並みの中学生活を送れるようになった中3の秋
またしてもSさんを絶望が襲ったのです

心の拠り所となっていた祖母が
自宅の風呂場で溺れて亡くなったのです
高齢者が風呂場で亡くなる事自体は珍しく無いとはいえ
両親も弟も水の事故で亡くしているSさんにとっては
耐え難い衝撃だったでしょう

その頃からSさんは自宅に引きこもるようになり
高校への進学もせずに
祖母の遺産で暮らすようになりました
外へはあまり出ずに、N先輩と会うのもいつも自宅で
そのうちにN先輩は自分の両親に事情を話し、泊まり込みの許可をもらったことで
食料を買い込むのもN先輩がするようになっていったそうです

そんな生活がSさんに追い討ちをかけたのか
やがてSさんは毎晩のように悪夢を見るようになりました
その悪夢が最初に話した悪夢と酷似するものでした
Sさんの場合は、それが毎晩進行していって
足音がどんどん近づいて来ていたそうです
心配するN先輩にも「あの足音が側に来たときに自分は死ぬ」と話していたそうです

そんな生活がしばらく続いたある日の夜
風呂に入っていたSさんが大きな悲鳴をあげ
何かに脅えるようにして風呂場の戸を力いっぱい叩いたそうです
何事かと慌ててN先輩が風呂場に向かうと
既に悲鳴も戸を叩く音も途切れていたので
N先輩が慌てて戸を開こうとすると、指先で幾つもの「何か」が潰れました
驚いて確認してみると、取っ手の部分をびっしりと
埋め尽くすほどのナメクジが這っていたそうです

その感触に嫌悪しながらもN先輩は取っ手に手をかけ
勢い良く戸を開けると
そこには体操座りのような格好で頭まで湯の中に沈んだSさんがいたそうです
無我夢中でSさんを引き上げて救急車を呼びましたが
その甲斐も無くSさんもまた、水の中で亡くなったそうです
その後N先輩はショックから立ち直れずに
精神科に入院する事になり
私がこの話を聞いたのも、その頃のことでした

今ではそんなN先輩も悪夢を見てしまうそうで
誰とも口を聞けず、面会もさせてもらえなくなりましたが
N先輩の両親だけがこっそりと
知人の中でも一番仲の良かった私にだけ日記帳を見せてもらえました
そこに書かれた悪夢の話、Sさんの話
そして「呪われた」とか「伝染るかもしれない」という文字が何度も書かれていました

もし私が見た悪夢が、この二人の悪夢と同じものだとすれば
私もN先輩もSさんの一家のように伝染するもので
同じ運命を辿るのでしょうか・・・
話にあったナメクジと髪の長い女は一体何なんでしょうか
そして兵庫在住の方、そのアパートについて何か知っていたら
少しでもいいので教えて下さい
今はとても怖いです

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