[おまわりさんの人形]

私の家は郊外にあり、駅から20分ほど歩いた所にある。
今日は幾分疲れたので私は近道して帰ろうと思った。
いつも近道して帰ればいいじゃないかと思う人もいるだろう。
近道しない理由、その道には古いおまわりさんの等身大の人形が立っているのだ。
その辺りは木が生茂り、昼間でも暗く、近所のイタズラ盛りの子供達でも気味悪がり
あまり近づかない場所なのだ。夜中なら尚更だろう。
私は疲労に負け、勇気を振り絞り近道する決心をした。

早足で歩く。夏のぬるい風が木々の葉をゆらりとゆらしている。
そんな風でも疲労している私の身体には心地よかった。

だんだん人影らしきものがボヤーっと見えてきた。
おまわりさんの人形、彼は月に照らされ私に横顔を向けてまっすぐ前を見つめている。
なんだ、そんなに思ったほど無気味じゃないな…。
彼の目の前を通りすぎて私はひどく驚き足を止めた。
私に向けてた反対側の横顔に赤いペンキで流血の様な落書きがしてあったのだ。
誰のイタズラだろう。心臓をドキドキ鳴らしながら私は再び歩き始めた。
思えばあの人形もかわいそうだ、毎日ああやって突っ立って、雨風に晒され…
私は振り返りあの人形を眺めた。彼は相変わらず目の前を見続けている。

夕飯時に私はあのおまわりさんの人形の事を妻に話した。
「全く、酷いイタズラする奴がいるもんだよ。」
「何言ってるのあなた、あのおまわりさんの人形、気味が悪いからってだいぶ前に
 町役場の人が撤去したのよ。」


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