[雑居ビルの怪]
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姿形はもちろんAなのですが、動作の一つ一つがおかしいのです。
確かに階段を上がる動作なのですが、何かこう、人間が人形を手で
動かしているような、ぎこちない動きでした。
右手、左手、右足、左足、それぞれが独立して動いているような
ともかく変な動きでした。

私は足がすくんでその場で立ち止まりました。
するとAが立ち止まりクルッと私の方へ振り返りました。
「ハハハハハハハハハ変だね、変だね、ハハハハハハハ」と笑うAの顔を見て
私は叫び声をあげました。動作と同じく、顔の表情もぎこちなく、笑うAの顔。
何より、白目が無くなって眼球いっぱいに広がった黒眼が私に叫び声を
あげさせました。

私は踵を返し、全速力で階段を駆け下りました。途中足が
もつれて転びそうになりましたが、それでも無我夢中で駆けました。
気づくと雑居ビルの一階にある薬屋さんにいました。どうやって階段から
出たか、その時の記憶はないのですが、パニックになってた私は後ろを
振り返らずに駅まで走りました。

駅の改札につくと、Bが待ってました。
Bは「遅い。映画が終わってから1時間も経ってるぞ」と怒っていましたが、
Aがいないのに気づくと「Aはどうした?」と聞いてきました。
私はこのまま外にいるとAが後ろからあの奇妙な動きで追ってくるような
恐怖に襲われ、とりあえずBを促して駅に中にあるファーストフード店に入りました。

とりあえず私は起こったことをBに話しました。
うまく整理できずに話したので途中Bに「もう一度詳しく話せ」
と何度も言われました。最初はBは私がからかっていると思っているような
態度でしたが、だんだんと真剣な顔つきになってきました。
というのはBは霊感が少しあるやつで、私達に起きたことが尋常では無いと
ピンと来たようです。

Bは「とりあえずそのビルに行ってみよう」と言いました。
私は嫌だと言いましたが「Aをほっとけないだろ」という言葉を聞いて
「確かにそうだ。Aは何かに憑かれたのかもしれない」と思い件のビルまで行きました。

先刻と同じように階段を上ってみると3階にはCD屋さんへと続く扉がありました。
4階に上ってみるとゲームセンターになってて、そこも普通に入れました。
階段はそこで終わり。4階建てのビルでした。
私達は首を横にひねりましたが、その日はとりあえず家に帰ることにしました。

明日、もしかしたらAは普通に学校に来るかもしれないと思ったからです。

次の日、登校するとAは来ていませんでした。
私より10分ほどあとに来たBが顔を青くしながら今朝変な夢を見たと言いました。
その内容とは、Aが森の中を泣きながら裸足で歩いており、
しきりに「悔しい悔しい」と呟いているというものでした。

Bはあれは単なる夢じゃないと言いました。でもどうしていいか分からないとBは言いました。
それから数日経ってもAは帰って来ず、捜索願いが出されました。
私とBも警察まで行って、その日のことを聞かれましたが、
あの不思議なことは話しませんでした。

それから1ヶ月後くらいでしたか、Aが発見されました。それも死体で。
これは直接家族の方に聞いたわけではないのですが、
何故か私の住んでる町から100キロ以上離れている隣県の山の中にある
神社の境内の横で、カラッカラに干涸びて死んでいたそうです。
しかも死後1ヶ月は経っていたそうです。

当時はAが死んでとてつもなく不快な体験でしたが、日が経つにつれて
忘れて行きました。この間Bに何年かぶりに会って「あれ何だったんだろう」
という話になって思い出した体験談です。


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