[手紙]

東京に上京している専門学校生の友人から聞いた話です。
千葉県‥‥といっても比較的東京寄りの地域に住んでいる女性がいました。
彼女は気立てがやさしく正義感の強い、25歳程の女性(A子さんとします)で、
5歳年上の会社員の彼氏と同姓しており彼女自身も東京の比較的都心に近い場所にある
会社に某私鉄の東○線を利用してOLとして働いていたそうです。
2人の付き合いは長く、築20年を悠に超えるであろうアパートでの2人暮らしはすでに5年目を迎え
お互い口に出さないながらもそろそろ結婚も‥との思いからか、
ひそかにそれぞれ貯金しながら切り詰めた生活を送っていました。
年末も押し迫まったある日、彼が中心となって立ち上げたあるプロジェクトが大成功を収め、
大仕事を成し遂げた彼は昇進したそうです。仕事に自信が出てきた彼はこれを機会に
A子さんへのプロポーズを決意し、A子さんも喜んで受け入れ2人は夫婦になる約束をしたのでした。
ある日、残業で遅くなったA子さんが足早に帰宅の戸に付くと
玄関の郵便受けに便せんが入っているのに気が付きました。
数日前に結婚披露宴の資料の請求をしていたので
それが送られてきたのかなと思いつつ手にとってみましたがどうもそうではないようです。
消印の日時は経年劣化のように擦り消えかかった状態で読み取れず、
宛名欄に「○○(ある地方でしか見ないような特有の苗字)」となんとか読み取る事ができるやけに古めかしい便せんで

ある事に気が付きました。
A子さんとは苗字が違うので、配達員が間違ったのかなとふと考えてみたものの
自分達が住んでる部屋の両隣に住んでいる住人もその比較的珍しい苗字ではない事に気づいたA子さんは
おかしいなと思いましたが、気立ての優しい性格がそうさせたのか彼女が住んでいるフロアに
この手紙の受取人がいるのでは‥?と思い一軒一軒尋ねて廻ってみたのです。
しかし、彼女が住んでいる2階フロアはもとより1階フロアにもその苗字の住人はいない事が判明しました。

A子さんは、おかしな事もあるもんだ‥と思いつつもこの手紙を待っている人がいたらと思うと
気軽に捨てる事もできず、アパートの大家にこの手紙について相談する事にしたのでした。
アパートの隣にある大家の家をA子さんが尋ねると70歳前後の男性の管理人が姿を現しました。
挨拶も程ほどにこの便せんを手渡しどうするべきか指示を仰ごうとすると、
それを受け取った管理人の表情が微妙に引きつったように変化したのを
A子さんは見逃しませんでした。A子さんが問い詰めると、
管理人は重い口を開き語りだしました。
この便せんに書かれている○○という珍しい苗字の人間は
今は当然A子さんが住んでいるアパートにいるわけもなく、
管理人さんが20年ほど前に、当時携わっていた仕事が大成功して大もうけし、
それを機会に今でいう脱サラをして不動産業にくら替えし、
このアパートを建てた20年前に最初の住人として住み着いた地方出身の夫婦の苗字と同じだという事です。
この管理人とも年が近い事もあって親しい友人のように付き合っていたそうです。
しかしその夫婦はすでに十数年前に実家に引越してしまったそうです。
このまま捨ててしまう気持ちにはとてもなれず、失礼ながらも管理人さんは
この朽ち果てていると言ってもいい古ぼけた便せんを空けて中身を確認する事にしたのです。
そうする事で何か次に繋がる情報を得られるかも知れないと思ったからです。

中に入っている手紙には次のように書き綴られていたそうです‥‥

続く