[夜行列車]
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やめればいいものを・・・そう思っても後の祭り
警笛が響き渡り列車のエンジンが唸っている状態
ふと毛布から頭を出してカーテンを少しだけめくって廊下を覗いてみました
なんであんな事をしたんだろう?
本当に今でも後悔しています
なんであのまま毛布を被っていなかったんだろう
そんな光景が
そんな光景が眼前にありました
廊下に点々と水がこぼれていた、と言うよりハッキリ足跡状態になって続いてました
寝台車の構造をご存じの方なら分かると思いますが寝台の中からは廊下の隅まで見る事ができません
しかし、廊下の頭上、窓の上の部分に小さな鏡が付いているのですが
そこに写っていたのは「黒い陰」でした
その黒い陰が廊下の奥の方へすーっと消えていったんですけど
やはりガシャともグシャともつかぬ音が響いてました
そして、その陰が廊下の隅へいったとき列車はトンネルを抜けたのですが
その黒い陰が何故か振り返ったように思えたのです、まるでトンネルを振り返るように・・・・です
本当に怖い状態になると人間身動きがとれなくなると言うのを実感しました
やがてその黒い陰がすーっと消えたのです、なんて言うのかな、フォトショップとかで画像の透明度を変更して
背景が陰越しに見えるというか、そんな感じ
やがてほぼ消えると思った瞬間、凄い速度で・・・窓の外を流れる景色と同じ様な速度で廊下を駆け抜け・・・
と言うより横に吹っ飛んで消えたんですけど、自分の目の前を通り抜けるとき、なぜだか・・・
本当になぜだか知りませんが、その陰の顔がこっちを見たような気がしたのです
と言うのも、まさに感覚的な物ですが、目と目があったような気がしたんです
なんて言うのか、そう、恨みのこもったような眼差しを感じました
それで何かもう心底怖くなって石のように固まってました
しばらくして我に返ったときは車掌さんが廊下から声を掛けたときです、「お客さん・・・・見ましたか?」でした
大丈夫ですか?ではなく見ましたか?と声を掛けられました
車掌氏は慣れた手つきで廊下の水を拭き取ってました、それって・・・・そこまで言ってから声が出なくなりました
ふき取ったティッシュがほんのり赤かったのを見たからです
車掌氏はどこか遠いところを見るようにボソッと「金華で臨停するときは100%出るんですよ」と言って車掌室へ消えていきました
その顔は青ざめきっていて、まるで人形のようでした
峠を越えた列車は速度を上げて坂道を下っていきますが、いつの間にか警笛は鳴らなくなっていました
ただ、なんかいつもより速いなぁ・・・と思っていたのですが、それよりも動悸が収まらず寝台の中で小刻みに震えていました
やがて列車は遠軽と言う駅に到着しました、なんか喉が無性に渇いたので駅のホームの自販機で缶コーヒーを買ったのですが
ちょうどそこへ運転を終え交代した運転士さんが通りかかりました、「峠の上でシカでもいたんですか?」と声を掛けたんですが
運転士は力無く笑って「いや、シカではなかったです」とだけ言って詰め所に入ってしまいました
現場の運行スタッフも嫌がる常紋の恐さを体験した夜のことです
これは誓って実話です