[出生の秘密]

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【△□】(伏字)  ...私の名前だ。

両親はそれまで決めていた名前を諦め、札に書かれていた2文字を私の名にしたのだ。

私は始めて知った 同年代の子供と比べて明らかに自分の名前が古臭い理由を。
地元の大人が私を見ると顔をしかめるワケを。


その木片を祖父が削り出し、祖母が祝詞(のりと)を書いたモノが、私が子供の頃から持たされ続け
今もこうして持っているお守りなのだと。

祖父は言った
生まれてすぐ腸閉塞で死にかけたり、沼に溺れてしにかけたりいろいろあったが
今も無事で居るのはそのお守りのおかげだと。忘れずにこれからも持つように。
そして、「この歳まで無事で生きていてくれて本当にありがとう」と爺さんは言った。

当時中学生の うす味な脳みそに全てが理解できるワケがなかったが
爺さんが死んだ今では 祖父の言っていた事を一句一句噛み締めている。


――そんな話を、彼女に話している。
祖父の葬式が終わって数日後だ。
こういった類の話に理解のある彼女とはいえ
引く事を承知で話している。何故か無性に伝えたくなったのだ。
彼女は
想像を裏切り『..そっか、そんな感じだと思った』と苦笑いしながら答えた。
「?」
『この前ね、枕元にヨボヨボのお爺さんが立って、言うちょね

            【あの子を守ってやってくれ】って。』

今もあのお守りは肌身離さず持っている。
もう書かれている字もかすれて見えなくなってるが
実家に帰る度に婆さんが必ず言う言葉を肝に命じて。
『だらぁ、お守り持っとるか?なくすなよ、失さしたら 死ぬぞ?』


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