[こんなに水があるのに]

職場に入って来た新卒の女子社員が洒落にならない。

うちは下請けみたいな小さい会社なんだけど、いろんな所に求人出してて結構良い大学の新卒の社員が入って来る。でもその子だけ違うんだよ。先輩から聞いた話によると、高卒らしい。

俺は新入社員初日、朝から外回りで歓迎会に初顔合わせだったんだ、飲屋の前で待ち合わせだったんだけど20分も早めに着いてしまった。
そこには軽く湿った女がいた。
確かに昼まで雨降ってたけど予報で言ってたし、時間的に乾くはずだ。
とりあえずその女の目の前を通り過ぎようとすると
『N先輩…』俺の名前を呼んだ、『誰?』って聞いたら
『私新入社員のFです』って。
彼女は目も合わさず言ってた。
見た目は社会人らしい格好、でも髪は長いし湿ってたせいもあって貞子みたいだった。化粧もしてるかしてないかって感じ。
不思議に思ったのがこの格好に不釣り合いなリストバンド。
俺は『うわぁ…手首とか切ってるんだぁ…変なの来ちゃったなぁ』ぐらいにしか思ってなかった。
『何で今日初めて会うのに顔も名前も知ってるのか』
なんて全然気にならなかったのは俺がおかしな事に鈍感だからだと思う。
しばらくして皆が来て飲み会が始まった。
結構盛り上がってた、あの女の事もさっぱり忘れてた。
皆が出来上がってからタイミング悪く新入社員の自己紹介が始まった。
急にまたあの女の事を思い出してしまい眉間にシワが寄った。生理的に身体が反応したんだろう。
しかし女はいなかった。変わりに彼女の席にペットボトルが置いてあった。中にはお茶の様な茶色く濁った水が入っていた。
新入社員の一人が『あいつ気持ち悪いんすよね、このペットボトルの中身、水溜まりっすよ?ありえないっすよ』
鳥肌が立った、傘もささずに水溜まりから泥水をペットボトルに入れてしかもそれを飲んでいる。
一気に酔いが覚めた。
他の女子社員は泣いてる子もいた。
そして場がシーンとした空気に包まれた時、居酒屋の店員が血相を変えてこっちにやってきた。
結構盛り上がってた
俺もあの女の事なんか忘れてた。
しばらくしてタイミング悪く新入社員の自己紹介が始まった。でもあの女だけいない。
変わりに彼女の席にペットボトルが置いてあった。中には茶色く濁った水が入っている、
一人の新入社員が言った。
『あの女気持ち悪いっすよね、そのペットボトルに入ってるの水溜まりっすよ?ありえないっすよね。』
小馬鹿にしながらその新入社員は言うが俺は鳥肌が立った、髪が湿ってたのはあの女が傘もささずに水溜まりにペットボトルを沈めてしかもそれを飲んでいる事を物語ったからだ。
皆シーンとした空気に包まれた。泣いてる子もいた。
新入社員の一人は『言っちゃいけなかったなぁ』って顔をしている。
しばらくしてアルバイト店員が血相を変えてこっちにやってきた。
『すみません!!株式会社○○ってこちらですか!!?』
先輩が『はい?』と言うと。『トイレで女の人が死んでるみたいなんだけど!!』店員は客に対して荒い口調で言い出した。
俺らは女社員を残してトイレに走った、中を見るとあの女が便器に顔を突っ込んでいた。手足はダラーンとしている。
便座とゆうか蓋が上から頭を挟み長い髪の毛がはみ出ている。
急いで引っ張ると女は白めを向いて口から水をゲボゲボ吐きながらビクビク動いている。しかし何秒もしないうちに動かなくなった。
便器の中の水はほとんどなかった。
外傷も無く、確か事故死として終わった、でも後で聞いた話によると彼女は極度の脱水症だったようだ。こんなに水があるのにも関わらず。

最近雨がよく降るから思い出してしまいます。


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