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臨月若妻殺人事件(未解決事件)その3

しかし、なぜ電話機がなかったのか? それは鑑識の現場検証で明らかになった。美保子の
遺体を調べてみると切り裂かれた子宮の中には最新型プッシュホン式電話機と車の鍵がついた
ミッキーマウスのキーホルダーが無造作に押し込まれていたのだった。犯人は現場に何も残しておらず
指紋はきれいに拭き取られ台所には血を洗い流した跡があった。また、遺体には性的暴行を受けた跡や
激しく抵抗した跡はなかった。警察はいくら捜査してみても何を目的とした犯罪であるのか解らなかった。
ちなみに、この事件のとき、数千円の現金が盗まれているがそれ以外の金目のものには手付かずである
ことから空き巣狙いという線は薄いと見られていた。その日靖男や美保子の交友関係を調べたほか
マンション近くを通りかかった通行人435人を確認、一人ひとりを丹念に捜査したがいずれも該当する
容疑者はいなかった。靖男自身も疑われたが帰宅直前まで会社にいたという完全なアリバイがあるので
疑惑は晴れている。
殺害の推定時刻は人の往来も頻繁な午後4時前後とされた。マンションの周りをウロウロしている
30歳ぐらいの小柄な男が3人の主婦によって目撃されており、警察はこの人物を捜したが
まったく足取りは掴めなかった。結局、犯人像を「死体破壊を好む性的倒錯者」とし近隣の各駅辺りには
<身の周りに妊婦に異常な興味を持つ人がいたらお知らせ下さい>という立て看板が一斉に設置された。
その後の懸命の捜査にもかかわらず、現在まで犯人の逮捕には至っていない。

『犯罪地獄変』(水声社/犯罪地獄変編集部編/1999)という本があり、この事件のことを
取り上げているのだがこの本によると事件のあった前日の3月17日、テレビの深夜番組で
歌川国嘉と芳年の残酷浮世絵「無残絵英名二十八句」を紹介したという。芳年の浮世絵には
「縛り上げた妊婦を切り裂き、赤ん坊を取り出す」というモチーフがあるらしい。犯人がこの番組を
見て犯行に及んだと考えるのはいささか短絡的ではあるのだが、まったく関連性がないかと
言われると否定はできない。
また、子宮の中に押し込められていた「電話機」と「ミッキーマウスのキーホルダー」からその意味
するところを「ねずみ講」と推測し、その関連からの恨みによる犯行ではないかと指摘する人もいる
のだが、真相は闇の中である。

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