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家に着いて、ハッと我に帰った時には、もうあの女性はどこにもいませんでした。
きっと幻覚を見たのだ、私は疲れているんだ、そう自分に言い聞かせ、
その日はすぐに床につくことにしました。

しかし、部屋の灯りを消して、眠りに入りかけた時です。
ペタン……ペタン……
廊下から、妙な音が聞こえてきたのです。
「連れて来てしまったんだ……!!」
鳥肌が全身に立ち、冷や汗がどっと流れました。
ペタン……ペタン……
その音は、生身の人間の足音とは違い、水分を含んだような音です。
「頼む、消えてくれ……」
私は一心にそう祈りました。
が、その音は段々私の方へ近づいて来ます。
ペタン……ペタン……
「やめてくれ〜!!!」
恐怖のあまり、そう叫ぶと、私の頭の中に声がしました。
「入れて〜中に入れて〜」
私はもう半乱狂になり、とにかく知っているお経を全て唱えました……。

気付いた時には、朝になっていました。
やはり、疲れているため昨日の自分はおかしかったのだろうか。
しかし、廊下に出た途端、また昨日の恐怖が鮮やかに蘇りました。
なんと、玄関から私が寝ていた部屋の前まで、水跡のようなものが
人間の足跡のようについていたのです。

『あの車には何かある!このままでは、身が危ない』
そう直感した私は、すぐに中古車センターに電話を入れ、
車をまた買い取ってもらうよう手配しました。
車は友人に頼んで、センターまで持って行ってもらいました。
その後、水跡のついた廊下は気持ちが悪いので、
板を全て剥がし、近くのお寺へ持って行きました。

私の話を全て聞いた寺の坊さんは、真っ青な顔をして
「その車にこそ霊がついている、その車を持って来なさい」と言いました。
しかし、車はもうすでにセンターへ返したことを告げると、
坊さんは静かに首を振りました。
そしてつぶやきました。
「その車についた霊は人を殺し兼ねない、いや既にもう何人かは……」
その後、私の身には何も起きていません。
しかし、あの車は今頃どうなっただろうか、と考えることがあります。
既に廃車にされていれば良いのですが……。

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