[アシュラさん]
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「まだあったんか…こんな腐れ外法が…」
「親父は真っ青になりながらも、急いで木箱の蓋を閉めたんだ。そして、
「見世物にしたらどうか?」と言う豪商の提案を激怒しながら一喝し、
 強欲な豪商がどうしても譲らないと言い張るので、「俺が金払ってでも引き取る」と言い、
 結局大枚はたいて買い上げたんだ。そして「あの腐れ朝鮮人がっ!!」と叫んだらしい」
「??…どう言う事??」

あまりに恐ろしく現実離れした話に聞き入っていた俺は、ようやく質問する事ができた。
もう瓶のビールはあと4分の1ほどしか残っておらず、俺は代わりを冷蔵庫から持ってきた。

「ん、ありがとう…そうそう、それでな、さっきのリョウメンスクナって話に
 物部天獄って出てきたろ?時代的にも違う人物とは思うが、親父の生きてた時代に、
 金成羅って在日朝鮮人がいたらしいんだ。
 天魁教ってカルト教団作って、細々と活動してたらしい。こいつがとんでもないヤツで、
 「教団の教え」とか偽って信者たちと乱交したり、大金巻き上げたりするわで、
 まぁ小物っちゃ小物だったらしけどね。それでも、こいつの先代か先々代の教祖が
 本物だったらしく、色んな呪法のかけ方とか書いて残してた、経典があったらしい。
 その中に、「人工的に即身仏を作り出し、呪いの道具とする」方法みたいのが
 あって、それがさっきのアシュラさんってわけなんだ。
 親父が何でそんなに詳しいかと言うと、親父の妹がこのカルト教に感化されてしまって、
 連れ戻すのに苦労した時期があったらしいんだ。それで金成羅ともゴタゴタがあったわけね」

「う〜ん、でもそんな教団も教祖も聞いた事ないよなぁ」
「そうだろう。でも本当に小さなチンケな教団だったらしいよ。信者もほとんどが
 在日朝鮮人とか中国人だったらしい。そのくせ、やってる呪法とかが危険な物ばかりだったと。
 大体ね、どの宗教や邪教の秘術とか呪いを見てもね、リョウメンスクナや
 アシュラさんみたいな(生命を冒涜するような呪法・呪物)ってのは
 ないんだよね。悪魔教でさ、赤子とかを捧げるのはあるらしいけど、それは一応
 太古や中世からの伝統であって、このスクナとかアシュラの類は、完全に
 「個人で勝手に考えた思いつき」の様な気がするんだよね。狂ってると言うか。
 逆にそういう素人考えが、凄まじい怨念を発する、危険なものを造り上げたんだろうね」
「うーん…それで、そのアシュラさんはどうなったの?」
「親父もホント頑固で昔気質な所があってさ、アシュラさん引き取った後、
「朝鮮近海の海に捨ててやる!!」とか言い出したらしくてさ。その頃
 金成羅は消息不明だったらしく、ほとんど腹いせだよね。朝鮮半島に持ち込むにしても
 検問や入管でそんなミイラ通るわけないし、それで少しでも近くの海に…って。
 今思えば親父もちょっと狂ってたのかもなぁ。それで知り合いの漁師に頼んで
 船出してもらったらしいんだけど、そのアシュラさん積んだ船が、
 今のK州の西方沖で沈んだらしいんだ。あぁ、もちろん親父は船には乗ってなかったよ。
 それが今から約50年ほど前かなぁ」
「で、分からずじまいと…他にもどこかにそんなミイラがある可能性ってあるの?」
「分からんねぇ…親父もアシュラさんの件以来、そういう情報には神経を尖らせていたらしかったけど、
 とうとう新たなそういう造られたミイラの情報は入ってこなかったらしいよ」

「で、これは完全に俺の推測と言うか妄想に近いかもしれないけど、
 去年の春ごろ、K州の西方沖で大地震があって、F県を始めK州各地にも違いが出ただろう?」
「あぁあれは怖かったなぁ…CDラックとか滅茶苦茶になって」
「あと最近、K州発の韓国行きの高速船や、K州西方沖を走る高速船に、
 クジラのような生物がぶつかる、ってニュースが多いだろう?怪我人も多数出て」
「あったねぇ。あまりにもぶつかる数が多すぎるよね」
「アシュラさんが沈んでる、K州西方沖と何か関係があるのかな…なんてな」
「まさか。ハハハ」
「まさか、ね。あと日本神話にもさ、天津神、国津神ってのが出てきてさ、
 天津神が朝鮮半島か中国大陸からやってきた騎馬民族で、国津神が日本列島の
 先住民。戦に天津神が勝利して、朝廷が出来た…(あくまでも一説)と言う神話もあるし、
 7世紀に起きた白村江の戦いや、秀吉の朝鮮出兵、さらに近年に起きた戦争、
 と、日本と朝鮮の怨恨みたいなものは、深くて根強くあるのかもしれないね」

これで大体話の内容は終わりです。


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