[押入れ]

友人が夜遅く帰宅をするとアパートの部屋の前で異変に気がつきました。
自分の部屋の電気がついているのです。朝出かける時は電気なんてつけないし、もちろんその日もつけてなんか
いなかったのに。
しかし記憶というものは曖昧なもので、その日の朝は曇りだったこともあってもしかしたら電気をつけっぱなしたまま出かけたのだと
深く考えることは止めにして、多少訝しみながらも気にせず玄関のドアを開けました。
部屋に入ると思ってた通り特になにかいるわけでもなくやはりただの思い過ごしだったのだと安心しきって
テレビを見ながら夜食を食べ始めました。
しばらくさっきの異変のことはこれっぽっちも気にしないでテレビに見入っていた友人でしたが、次の瞬間さらなる異変が彼にふりかかりました。
突然横の押し入れからゴロンとなにか大きな物体が転がる音が聞こえてきたのです。
さすがに友人もこれはまずいと大慌てで外に飛び出しました。
そして近くに住む同僚の家のドアを叩くと助けを求めに行きました。
最初は110番をしたほうがいいと思ってたいたそうですが、もしかしたら押入れの中に入れていた釣り道具かなにかが偶然倒れて
音がしたのなら警察を呼ぶまでもないし大事になると面倒なので同僚と一緒に今一度部屋の様子を見に行くことにしたそうです。

友人は部屋に戻るのが怖いので同僚に先立ってもらっていたそうです。友人の部屋は2階です。
そのアパートはありふれた貧乏アパートで階段は建物の左右に二つ、もちろんエレベーターなどありません。
アパートに着くとまず同僚が階段を上って周囲を確認することにしてもらいました。
勇猛果敢な同僚は特に怖がる様子もなく堂々と階段を上っていきましたがどういうわけか1秒もたたぬうちに急いで降りてきました。
そして小声で友人に話しかけたそうです。
「おい、お前の部屋の前に誰か立ってるぞ!」
二人はしばらくどうすればいいのかとうろたえていましたが、次の瞬間階段の上から妙な女の顔が覗いたそうです。
それを見た二人はもうダッシュで逃げました。

結局二人は警察を呼びました。
特に部屋は荒らされていないし、何かを取られたわけでもなかったのですが、
押し入れの中に血液の混ざったゲロがぶちまけられていたそうです。
同僚と友人がみた女の顔は明らかに尋常ではなく、あんなのは一度も見たことがなかったと言っていました。
(同僚の人曰く、良くてキチガイ。要するにキチガイ以上のものだったってことだそうだ。)
そして友人にとって一番重要だったのは鍵をかけていた部屋に一体どうやってそいつが侵入できたのかということ。
当然、その日に友人はアパートを出ていきました。


次の話

Part129menu
top