[封じ込められた記憶]
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要約するとこんな感じだった。
私が7歳の夏、家族でドライブに出掛けた。その帰り、自宅近くの国道でちょうど
別に出掛けていて、帰る途中のお隣のお兄さんのバイクがうちの車の後ろについた。
多分親しいうちの車だったからあえて後ろについて一緒に帰宅の途についたのだろう。
バイクとお兄さんに夢中だった私は後部座席でお兄さんに手を振ったり、一方的に
ジャンケンしたりして遊んでいたらしい。その時だった。脇道から出て来たトラックが
お兄さんを吹き飛ばしたのは。反対車線を走っていた別の車にまで撥ね飛ばされて
死亡したお兄さんの遺体はこの上ない悲惨なものだったそうだ。幼い私を親が庇って
見せないようにしていたようだが、私はそれを見てしまったらしい。
私は泣き叫ぶと思いきや、その場で凍りついたように動かなかったそうだ。

こんな話を聞いて、すごく悲しくなったが、やはり記憶が今ひとつピンとこず、
時間が経って大人になった今、ただただ漠然とお兄さんの死を悼む事しか出来なかった。
(ちなみにその後そこを引っ越したのだが、この引越しはこの事故とは直接関係なく
親の仕事の都合だったらしい)

やりきれないような、それでいて覚えていないから正直どうでもいい事のように
考えながらぼーっとさっきのアルバムをめくっていた。残念ながら「バイクのお兄ちゃん」
と写っている写真も残っていず、記憶が冴える事はなかった。

ところが、アルバムと共に出て来た落書き帳にそれはあった。
鉛筆で下手糞な女の子や猫(らしきもの)が描きなぐられている中、
バイクとおぼしき物と、それに乗っているらしき男の人の絵。
その下には「ばいく のおにいちやん」「すき」等と書かれている。
「ああ、これが…大好きだったんだなぁ…」
と、なんとなく切ない気持ちになった。
めくっていくと、それから数ページとりとめもない絵や文字が描かれていたが、
最後のページを見て背筋が凍りついた。

「おにいちやん とばいく が しんだ
おにいちやん が なん だかよくわから ないもの に なりまし」


この文から、幼い私が何を見たのか容易に想像出来た。
東京の自分の部屋に帰って、自分のバイクを見た途端、寒気に襲われた。
相変わらず事故の記憶は鮮明にはならなかったが、バイクを手に入れた途端に
湧き出したあの恐怖の感情は何を意味しているのか、私はバイクを乗り続けて平気なのか、
判らない。

長くてすまん。


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