[おめん屋]
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店の人は?と見回すと
丁度屋台の反対側に、道路から隠れるような所にいた。
俺達には背中を向けた、つまりこちらからは顔が見えない状態で。椅子に腰掛けていた。
彼女が「こんばんは。」と声をかけると、店の人がゆっくりと振り向いた。
少しびっくりした。
薄暗いので気づかなかったけど、その人はおめんをしていたんだ。
しかも、例の薄気味悪い無表情なおめん。。。
「おやお客さんかい。」
おめんのせいか、少し聞き取りにくかったが
声の感じでその人がおばあさんだとわかった。

一瞬、俺と彼女は顔を見合わせたが俺はこの人の営業スタイルなのかな?とおもった。
彼女もそう判断したらしく、気を取り直して二言三言、言葉をかわしていたが
気味の悪いおめんばかりなのは変わらない。
結局、欲しいおめんがなかったのでひやかしだけになってしまった。
車に乗り込んで彼女が助手席から再び礼をいって立ち去ろうとした瞬間、
海側からびゅぅっと、突風があたりを吹き抜けた。
かざぐるまが、からからからと激しく音をたてて回り、
おめんがバタバタと風と壁の狭間ではじけ、
ほとんどのおめんが地面に落ちてしまった。
「あっっ」と俺達は声をあげた。

落ちたおめんに対して出た言葉じゃなかった。
唯一、風に飛ばされなかったおめん。
屋台の正面の真ん中にかかっていたおめん。
それがすぅっと屋台の中に引っ込んで、ぽっかりと黒い穴が現れたかと思うと
パタンッとその穴をふさぐ小さな扉が閉められたように見えた。

屋台の周りにはおめんが散乱していた。
おばあさんは向こうを向いたまま、うつむき気味に身じろぎもせずじっとたっている。
次の瞬間、ガタガタガタと音がしてはっと我にかえった。

屋台が小刻みに震えている。
おばあさんを見ると、やはりじっとうつむいたまま動かない。
なぜか、おめんをつけているかどうか確認するのが怖かった。
ガタガタ音はだんだん大きくなり、
ミシッとかメリッとか言う音も混じってきた。

「早く、、、早く出して。。。」と震える声で彼女が言った。
俺はあわててアクセルを踏み込み、、その場を後にした。
バックミラーに写るおめんやが遠のいていき、次のカーブで見えなくなった。

数日後。
当然彼女は嫌がったが昼間に行くということで説得し、
帰りにそこの前を再び通ったけどもうおめん屋はそこにはいなかった。


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