[異常に長い人]
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扉のノブがガチャッと音をたてる。扉の向こうの両親が言った。


「○○、鍵開けてくれ」


この言葉は一生忘れないと思う。なんか目の前がまっ白になっていった。
さっき泥棒はそこの扉から出ていったのに…
体を震わせて鍵を開ける。両親が俺の顔を見るなり驚いていた。
余程酷い顔色をしてたんだと思う。それから3人で家の隅々をまわった。
玄関、窓等、泥棒が入りそうな所は尽く無事だった。
両親はそれでも「警察呼ぶか?」と言ってくれたのが凄く嬉しかった。
こんな粋狂な話しを信じてくれてるんだな…と。家族の優しさを感じた。
その日は両親の部屋で休み、何事もなく朝を迎えた。

母が洗濯物を干しながら隣人と挨拶をしてる。父が新聞読みながら飯を食べてる。
そこにあるのはいつもの朝の光景。
俺は自分にあれは夢なのだと言い聞かせた。
夢であるはずがない。
でも夢だったのだと。

テレビを見ていると母が血相を変えて家に駆け込んできた。
父と俺が驚いて母を見ると、母はこう言った。
「○△※□…さんの所の旦那さん、亡くなったって」

…血の気がひいた。景色がグニャっと歪んだ。
父と母が何か話してたが耳鳴りでよく聞こえない。ただひたすら昨日の事を思い出していた。
「○△※□」…昨日の人物は確かにそう言った。○△※□さんの家を俺が教えたんだ…俺のせいだ……
母が「詳しい事を聞いてくる」と言い、隣へ走っていった。
暫くして母が帰ってきて「何か夜中に急だったって。多分心臓か何か…」と言った。
俺は母に「こ、殺されたとかじゃないの?」と聞いた。
母はキョトンとして「殺される訳ないでしょ。昨日まで元気だったのに…怖いねぇ」と答えた。

後に○△※□さんが亡くなったのは夜中の3時頃だった事がわかった。


俺は霊を信じない。あれは死神だった、そんな事を言われても信じない。
昨日5年ぶりに現れた人物が、親の名前を問いかけてきた事も信じない。

目の前の親の死体も信じない。


信じたくない。


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