[黒田君の話]
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その後、せっかく集まったのだからとカラオケに行くメンバーと別れて、僕は家に飛んで帰りました。
一学期の最初にもらったきり、家の電話の横に吊るしておいたクラス名簿を引っ張り出して
黒田くんの電話番号を探します。かけようかかけまいか迷いつつ、視線が番号を見つけるとすぐに
PHS(当時高校生が持たせてもらえるのはPHSでした…)を持って部屋に引っ込みました。
なぜか震えて仕方ない指先で番号を押すと、階下から姉の呼ぶ声がします。
「黒田くんって子から電話!!」
その瞬間、この後何度となく黒田くんと味わった恐怖の中でも最大級の恐ろしさが体を駆け巡りました。
階下まで何とか行って、コードレスホンを受け取ったのはいいのですが、とてもではなく恐ろしくて
ひとりきりで黒田くんと話す気にはなれません。会話を聞かれることを承知で、姉と弟、父のいるリビングの端で
受話器を耳に当てました。
「ああ、俺。ごめんな、遅くに」
真夏に冷や汗をたっぷりかいて、歯の根も合わないほどに震えている僕とは裏腹に、いつも通りに黒田くんは話しかけます。
何してた?とか、俺も今帰ったところでさ、とかしばらく当たり障りのないことを言い続けていてくれましたが
僕が何も言わないので、やがてちょっと困ったような声音で言いました。
「さっきのことだけどさ。お前には、もう一回見られちゃってるんだよな。だから話すよ」

続く