[沖縄の思い出]
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そうなった頃になってようやく俺も怖くなってきた。
もし本当に草むらにハブがいたら、この状況で咬まれたらまず命が無いのだ。
内心ものすごく逃げ出したかったが、びびってることをKに悟られたくない俺は必死でKについていった。
Fは泣き泣きぐずりながらもついて来た。Kは人が変わったように一心不乱に突き進んでいた。

しばらく進んで、もう洒落にならん位怖くなったので俺はFと一緒になってぐずる事にした。
もう怖くて怖くて体裁など構っていられない。
Kは最初は聞き訳がなかったが俺とFの必死の嘆願にようやく戻ることにしてくれたようだ。
来た方向を振り返ると宿泊施設の明かりが小さく、その遥か向こうに港町の明かりが点々と輝いていた。
ここまで来たが草むら以外に何も無かった。怖い思いをしたが何も収穫が無かった。
ただ振り返る直前に進んでいた草むらの向こうに何かチラリと光った気がしないでもなかったが、
その時はなんとも思わなかった。後になって考えると恐ろしい。

宿泊施設に戻ると思ったよりも遥かに時間が経過していたらしく、
「生徒が3人行方不明になった」
と先生達が血相を変えて待っていた。もちろんかなりコッテリと絞られた。
生徒がハブにかまれたときのことを考えてヘリを呼んで警察に捜索願を出そうとしていたらしい。

色々あって修学旅行が終わったが、沖縄から戻ってからというものKの様子がおかしい。
以前はそんなことをする奴ではなかったのだが、奇声を発しながら机やロッカーなどを殴ったりする。
それに妙にカリカリしていて短気になった。まるで不良みたいだ。
そのうちKは学校に来なくなってしまった。
しばらくして登校するようになったときには以前通りのKに戻っていたので安心したものだ。

どうしたんだとKに聞くと、Kはどうやら憑かれていたようだ。
Kの家系は代々霊感が強いらしく、Kは見えたりはしないのだが物凄く憑かれ易い、
霊媒体質とでも言うのだろうか、そうゆう体質だそうだ。
沖縄から戻って以来性質がおかしくなったKを見たKの祖母は、親戚の仲で特に力の強い人を頼って診てもらったそうだ。
なんでもKは10数体もの霊にとり憑かれていて、普通に生活していたのが不思議なくらいだったそうだ。
その中の格闘家の霊の影響で暴力的な行動を起こしていたらしい。
その親戚の方がねんごろに霊の供養をしたお陰でなんとか普通に戻れたそうだ。

そのことと合わせてもう一つの事実を聞いた。今になってもその事がかなり恐ろしい。
あの離島での冒険でKはひらすら進んで行ったのだが、後で地図で確認すると
その進んでいた方向には戦争で亡くなった方々の慰霊碑が建てられた霊園があったらしい。
一咬みで命を奪うハブ・慰霊碑・Kにとり憑いた霊・・・俺達はあの日何かに引き寄せられて行ったのかも知れない。

今でも沖縄と聞くとあの日のことを思い出す。
こう言っちゃ何だがあの土地へ遊びに行く人たちの気が知れない。
もう2度と行きたくない。


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