[産婆の暗い部分]
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祖母は産婦さんの苦しい陣痛の声で目が覚めました。ぱっと見ると既にSさんは真剣に分娩の手助けをしていました。
祖母は何となく違和感を感じながら急いで取り上げの手伝いに加わりました。物音に気づき、起こしに行く前に産婦の母親がとんできまし
た。(その地域?村?では母親以外の家族は分娩する部屋に入らない、という暗黙の了解みたいなものがあったという。他の家族は
別の部屋でひたすら待っている。)
母親は娘の手を握っていました。

そしてSさんが赤ん坊を取り上げ、どうにか無事生まれました。
産婦さんも意識がはっきりしていたので産婦の母親と私の祖母がホッとしていると、Sさんが言うのです。
「この子、目ん玉が無いわ・・・・」


祖母は、頭半分母親から出てきた時の赤ん坊の顔を確かに見たといいます。
顔、指の本数などは取り上げた産婆が必ず確認する事なので、今回確認するのはSさんだったのですが、祖母はついいつもの癖で確認した
んだそうです。確かに目は開いていなかったが、下にはちゃんと眼球のもり上がりを確認していた、と。

赤ん坊の母親は半狂乱になってうつ症状に陥ったが、何年後かに見た時は可愛がってその子を育てていたと聞きました。
祖母はずっと言い出せなかったと私の母に打ち明けました。万が一自分の見間違いだったらどうしようと。
しかし今でもSさんがあの赤ん坊の目を故意に潰したのではないか、と疑わずにはいられない、と母に言ったそうです。
あの時、祖母が産婦さんの陣痛の声でぱっと目が覚めたときの違和感は、後に冷静になって考えると、
「Sさんはなぜ私に一言『起きて』と声をかけてくれなかったのか」ということだった。

Sさんが一方的にその産婦さんに何か恨みを持っていたのではないか、
それとも祖母の思い違いでその子は本当に障害児として生まれてきたのか、
今となっては何も分からないそうです。


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