[茶色い頭]
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お湯がたまったので、一緒に入ってた。
彼が頭洗ったりしてるのを湯船から見てたら、すりガラス?のドアの向こうで何かが動いた。
見たらいけない、見たくないと思って見ないようにしてた。
けど見間違いかもと思い、視界のはじっこに恐る恐るドアを入れてみた。
いた。頭が、頭だけがドアの向こうにいた。体がなくて、細い木の幹で頭を支えてる感じ。
そんなシルエットがあった。手が冷たくなって、お湯の中で膝が震えてた。
さすがに彼も気づいたらしく、「どうした?」って聞いてきた。
言おうかどうか迷った。けど彼の部屋で見てるものがここにもいるってことは、彼についてきてるってことだ。
そんなこと言われたら嫌だろうし、変なこと言う女だと思われてふられるかもしれない。
でも言いたい、この怖さから解放されたい。悩んだ末言おうと決め、「あのね・・・」と言いかけたら。
「だめだよ」って言われた。はっきり聞こえたの、「だめだよ」って。
「もう許せないけど、告げ口はもっと許せないから」って、可愛いけど、ちょっとノイズのかかった遠くからの声。
もうだめだと思った。その時には目があってたから、ドアじゃない部屋に面したガラスのむこうにいたから。
セミロングの茶色い頭、色白の顔は整って、大きな目の真ん中に、点のような黒目があって、無表情にこっちを凝視してた。
首が伸びきったようになって下から伸びてて、それが頭にくっついてる。
その時自分がどんな風にふるまったは、全然覚えていなくて、ただそれと冷たくなった手のことだけはっきり覚えてる。
具合が悪くなったから帰ろうと、それだけ言って帰ってきた気がする。
急に様子が変わった私を心配して、彼が何か言ったりしてくれてたと思うけど、それどころじゃなくて覚えてない。
家についても怖くて怖くて、泣きながら友達に電話してきてもらった。
その子はけいちゃん(仮名です)と言って、私はけいちゃんに全部話してしまった。

霊感とかはないけどとても肝が座ってるけいちゃんは、あんまり信じてるふうではなかったけど、
私が落ち着けるように、その日は泊まってってくれることになった。
うちの父・母・兄とおばあちゃんとけいちゃんとご飯を食べて一緒にテレビ見てたりしたら元気になってきて、
やっぱ気のせいなのかなと思えてきた。でもあの顔が忘れられない。

続く