[食欲]

数ヵ月後、タナカくんは退院しましたが頭を打ったせいなのかいつもと違った行動をとり僕を驚かせました。
それは例えば、野原で一緒に遊んでいると突然しゃがんでバッタを美味しそうに食べたり、公園の鯉を捕まえて頭から食べたりというものです。
その頃から会う度にタナカくんは「何か」を食べており弟がいつも食べ残した「何か」を埋めていました。
気味が悪かったですが、病気だからと仕方なく遊んでました。
しかしさすがにもう嫌だなと思った事があります。それは、家で「福笑い」をした時でした。
それを見てタナカくんは「おいしそうだな」とつぶやいたのです。それから段々、距離を置くようになりました。
そんな時、事件が置きました。
タナカくんはお母さんの大きなワシ鼻を食べてしまったのです。
当時、団地の周りはマスコミが殺到していましたから嫌でも耳に情報が入りました。
タナカくんは酔っ払って眠っているお母さんの鼻を「復讐だ」と叫びながら噛み切って、その鼻をフライパンで焼いて食べたそうです。

と、いう話だった。
焚き火が「バチン」とはぜる音の後に友人が「それでタナカくんはどうなったの?」と兄に聞くと「施設に入ってから消息不明」と私の顔を見た。
火のせいなのか、タナカくんが「何か」を食べている時のように見えてしまった。
息が止まる感じになり急に怖くなった。思わず友人に「トイレに行かない?」と言うと今まで黙っていた弟の方が「一緒に行こうか?」と言ってきたので体が固まってしまった。
友人が明るい口調で断り2人で来た道を戻った。
トイレに入ると寒気がひどくなり、帰りたいと話すと友人も同意見で兄弟を置いて車に乗ってしまった。
帰り道に考えていると、さっきのタナカくんの話は自分自身の話なのではないだろうか、あの焚き火から変な匂いがしていたがアノ兄弟は何を焼いていたのだろうか。
少し時間が経つとバカな妄想だな、と笑いそうになった。
が、友人の話を聞いてまた寒くなってしまった。
「いや〜、『大きな瞳だね。おいしそうだ』なんて面白くない冗談の後にアノ話は気味が悪かったね」と。


次の話

Part121menu
top