[カーテンの向こう]
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「あ゙あ゙ぁ・・・」 
「誰だ!」 
とっさに俺は立ち上がって窓際に走り寄ると、力任せにカーテンを開けた。 
目が合った。 
窓のすぐ外にいたあいつと、わずか30センチの至近距離で目が合ってしまった。 
それは生きた人間の目ではなかった。ライチのようなドロリとした質感をしていた。 
「・・・ぃぃぃぁぁあああ」 
俺は口を大きく開け、まるで猫のような甲高い声を上げていた。 
そのあいだも目を逸らすことができなかった。身体は凍りつき、両手が大きく震えた。 
恐いなんてものじゃない。あれは絶対に見てはいけないものだった。 
数秒後、俺は腰から砕けるように後ろに倒れた。 
硬直した右手で掴んでいたカーテンがバチバチと大きな音を立てて外れた。 
目覚めると朝だった。窓の外には気持ちの良い青空が広がっていた。 
俺の右手にはまだカーテンがしっかりと握り締められていて、 
一方のカーテンの端がかろうじてカーテンレールに引っかかっていた。 
後日談。 
大家の話では、その数年前、マンションの前の森で首吊り自殺があったらしい。 
首を吊ったのは20代の女性で、失恋を苦にしての自殺だったそうだ。 
新聞にも載ったのだという。俺が引っ越してくる直前の出来事だったようだ。 
なるほど。世の中いろんなことがある。時には想像を絶する恐怖も。