[金縛り]

数年前、私がまだ中学生で、学校に行くために引越しした頃の話。
私とオカンはレ○パレスの物件を一件借りて、狭い部屋の二段ベッドで寝ていた。
安いボロアパートの二階、角部屋だった。上が自分、下でオカンが寝ていた。
部屋の構造は、玄関を入るとすぐ左に暗いユニットバス、そして小さな流し
(キッチンの代わりか何か)が続いている。玄関からその小さなリビング
に入るまで約2.5mくらいだった。そんで入るとすぐ目の前に二段ベッドの尻部分がある。
つまり窓の方に頭を向けて寝ている状態から身体を起こすと玄関がそのまま見える様な
構図を想像してくれたらいい。

ある晩、夜中の2時を過ぎても寝られずにいた自分は二段ベッドから見下ろすように
部屋の明かりが付いたままテレビを見ていた。下の段ではオカンが
疲れ果てて寝ていたのを覚えている。その見下ろす体制に疲れて自分は横になり
段々とうっつらしてきたので布団に入ると・・・そのまんま寝てしまった。

・・・ふと起きると部屋の何かが変わっていた。まだテレビも明かりも付いているのだが
何故か空気が重く・・・体が動かない。まるで型にでもはまっている様に、
肩から上と眼球が少し動く程度だった。そう、金縛り。自分は下で寝ているオカンに
助けを求めようとするが,声どころか口もろくに開かない。自分は酷く焦った、
それは身体が動かない上に異様な空気がさらに重くなってきていたからだ。
・・・そして不思議な事に、意識がはっきりとした瞬間から何故か玄関が気になっていた。
一度そこを見ると、目が離せなくなった。やばいやばいやばい。

ふと、音がした。それは隣人でも下の住人でもない、自分の部屋。
オカンが起きたのかと一瞬安心したが、それは一瞬にして裏切られた。
コツ、コツ、・・・コツ、・・・コツ・・・
それはまるでハイヒールを履いた不自由な足が、ゆっくりと歩いているような音だった。
もう混乱、必死で声を出そうとするが、それもダメ、しかも何故か動いてはいけない様な
気がして体を動かさないでいると、身体が全体が痺れた。だれでもいいから助けてくれ、
そう祈りながら玄関の方を見ると、そこには真っ黒い髪の頭部が見えた。
それがゆっくりと近付いてきているのだ。自分は恐怖で耳鳴りがした。もうだめだ。
奴の顔を見たら気が狂うと。そしてそいつはすでにゆっくりとベッドサイドまできていた。
そして、それは自分をゆっくりとした動作で見た。目は見えなかったが、
自分に目を向けている事がわかった。不覚にも自分はそのまま失神してしまった。

次に起きると、部屋も身体ももとに戻っていた。
あれは夢なのかどうかは分からないが、初めて見た霊らしきモノだった


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