[逆さの樵面]
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言い争いは平行線だったようですが、とりあえず土谷家側が折れて
父たちを屋敷へあげてくれました。
歴史ある旧家だけあって広い畳敷きの部屋がいくつもあり、長い廊下
を通って、玄関からは最奥にあたる山側の奥座敷の前で止まりました。
どんな秘密の隠し場所に封じ込められていたのだろう、と想像して
いた父は拍子抜けしたといいます。
姑が奥座敷の襖を開けたその向こうに、樵面の黒い顔が見えたのです。
しかしその瞬間、集まった人々の間に「おお」という畏怖にも似た
響きの声が上がりました。
「決して中へは入ってはなりません」と姑は言い、悪いことは言わな
いからこのままお引取りを、と囁いたのです。

明かりもなく暗い座敷の奥から、どす黒い妖気のようなものが廊下
まで漂ってきていたと、父は言います。
締め切られていた奥座敷の暗がりの中、奥の中央に位置する大きな柱
に樵面は掛けられていました。

しかしその顔は天地が逆、つまり逆さまに掛けられているのです。
しかも柱に掛けられていると見えたのは、目が暗がりに慣れてくる
とそうではないことに気づきます。
面の両目の部分が釘で打たれ、柱に深く打ち留められていたのです。
「なんということをするのだ」
と古参の舞太夫が姑に詰め寄るも、教育委員会の職員に抑えられまし
た。
「とにかくあれを外します」と職員が言うと、姑は強い口調で
「目が潰れてもですか」

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