[逆さの樵面]
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千羽神楽では素面の舞もありますが、面をつけての舞がほとんどです。
神楽面は舞太夫が人から人外のものへと変わるための装置であり、
衣装を合わせ面をつけた時、それは太夫ではなく鬼神や魔物そのもの
が舞っているものとして認識されます。

そのため、神社の中とはいえ人の領域の内に鬼神を招くための結界
として、はじめに注連縄が張られるのです。
受け継がれてきた古い面には力があり、けして粗末な扱いをしては
ならないとされています。

江戸中期に記された『千羽山譚』には、「特に翁の面は怪力を持ち
他の面と同じ行李に入れていては、他の面を食い破る」という不気味
なことが書かれており、現在も神楽面の中で唯一翁面だけが竹で編
んだ小さな行李に単独で保管されています。

私の父はこの翁面の舞手でしたが、いつもこの面を着けるときだけは
手に汗が浮くと言っていました。

さて、室町時代より500年にも亘って続く千羽神楽ですが、その
長い歴史の中で演目が亡失するということもあったようです。
千羽郷に赴任された役人の古河伝介が記したという『千羽山譚』や、
その他の旧資料に現れる神楽の記述によると、もう舞われなくなっ
ている4つの舞があることがわかります。

このいずれも、面も祭文も残っておらず、資料の挿絵によって衣装が
辛うじてわかるくらいでした。
ことの発端は、この失われた舞が復活する次第よりはじまるのです。

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