[絵に魅入られる]
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ホントに嫌だったのはその翌々日。つまり月曜の夕方。 
うちで注文した資材が入荷したんで、倉庫に運んだんだけどさ。 
……例の位牌ダンボール箱のひとつが蓋開いてる。 
そればかりか、なんか見覚えのある布の被った絵が、そのダンボールに立てかけてある。 
うわマジで洒落にならん、と思ったけど「気になる」なんて生易しいもんじゃないから一応確認してみようと思った。
布をそーっと捲って見てみると、女の人の肖像画だった。肩口から上がモナリザみたいな構図で 
描いてある絵。……ただ、まあ、さすがだね。寺で預かるだけのことはあるね。 
ひとごろしみたいな目がこっち睨んでて、唇の端がきゅーっ、と笑いの形に吊り上ってる。 
十人に聞いたら十人が「気持ち悪い」と言うであろう表情。描いたやつの気が知れない、というレベルの。 
速攻で倉庫を出て、係長に進言した。「持ってきたはずの無い絵がある」って。 
ちょっとした騒ぎになった。すぐにその時の面子が倉庫に集められて「これ、誰が持ち込んだんだ」と質問。 
そしたら隣の部署の新人が手を挙げるわけだ。最早、彼以外の全員が「????」状態。 
だってそんなもの運べなんて誰も指示してない。なんでそんなことしたのか。 
新人「……良く覚えてないんですけど、俺が(ダンボールに)入れたような気がします」係長「気がした、ってのはどういうことだ」 
新人「すみません、良く覚えてないんです」 
係長「………」 
俺 「土曜日、ここに運んだ時は箱には封がしてあっただろ。開けたのは誰なんだ?」 
新人「あ、それも僕です」 
俺 「……なんで? 今日あの寺から荷物の問い合わせでもあったの?」 
新人「いえ……昨日、ぶらっと会社に来てこの絵を見てたから……」 
係長・俺・その他「……………っ!」 
つまりそいつはわざわざ嫌な絵を運んできたばかりか、日曜日に会社に来てその絵を眺めていたらしい。 
休日で誰もいない会社の倉庫で、一人で。しかも彼は自分がそういう行動をとったのは覚えているのに 
「何故そんなことをしたのか」がどうしても思い出せない、とのこと。 
この時点で俺は鳥肌立ちまくり、係長も「こりゃヤバい」と判断したらしく、すぐ寺に連絡した。 
後で聞いたら電話の向こうで住職の息子さんがこんなこと言ってたらしい。 
「ああ、付いていっちゃいましたか。その人を怒らないであげてください。悪いのはその絵ですから」 
……手伝いメンバー全員が寺に持っていくことを拒否したため、返却は運送屋さんに任せました。 
泣く泣く再梱包したのはその新人だったがw