[禁断症状]

俺には4つ歳の離れた兄貴がいる。
当時、俺は中1、兄貴は高2。
顔は決して良いわけではないが頭がよく、勉強を教えてくれたりした優しい兄貴だった。
両親は俺を見るたび兄貴を見習えとか言ってた。

ある日、兄貴が塾へ行ったきり夜の12時をまわっても帰ってこなかった。
いつもなら10時には帰ってくるはずなのだ。
親が心配して塾に電話を掛けようとした時、電話が鳴った。
警察からだった。
兄貴をむかえに来てほしいとのこと。
兄貴は何をしたのか母親に聞いたが、その時は何も言わず兄貴をむかえに行った。
次の日、兄貴は学校に行かなかった。
その日の夜、母親が昨日の訳を泣きながら俺に話した。
「昨日ね、○○(兄貴)を警察にむかえに行ったのよ・・・。
○○ね、麻薬(種類は不明)を持ってたんだって・・・。
学校の友達に勧められたらしくて。
幸い、麻薬に手を出したのは昨日が初めてらしいけど・・・。」
信じられなかった。
あの真面目で優しい兄貴が麻薬だなんて。
学校はしばらくのあいだ停学になり、兄貴は部屋にずっとこもるようになった。
ただ、日課の早朝マラソンは欠かすことなく行っていた。
麻薬事件があってから、兄貴は変わっていった。
独り言がやたら多くなり、たまに俺と話しても視点が定まらない感じだった。
親もそんな兄貴に気づいていたと思うが、見て見ぬふりをしているように見えた。
兄貴はまだ麻薬をやっている・・・俺も、そして多分親にもそれは分っていた。
ただ誰にも言えなかった。口に出すのが怖かった。
それからしばらく経ったある日、兄貴が洗面所の鏡の前に立っていた。
なにやら右の頬をぼりぼりかいている。
そしてかいているところから血が大量にでている。

「何してんの!?」と聞くと、
「この中に虫がいるんだけど、どうしても取れない」といって、掻き破った頬の中から舌をぐいぐい引っ張っている。
俺は泣きながら兄貴を止めたが、一向に止めようとしない。
俺はとりあえず隣の家のおばさんを呼び、事態の異常さを知ったおばさんは警察と救急車を呼んだ。
命に別状はなかった。
ただ、麻薬の症状が酷いとのこと。
なぜ今まで気づかなかったんだと医者が親を叱っていた。
親は泣きながらゴメンナサイごめんなさいと繰り返していた。

これが俺の洒落にならなかった体験。
兄貴は今、同じように麻薬に手を出した人達と共にある施設で暮らしている。
今も禁断症状に悩まされているが、もとの優しい兄貴に戻りつつある。

次の話

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