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この話がどこまで本当なのか、先輩は分からなかったと言う。
ただ、喉の渇きを訴えるホストに、その友人は自らペットボトルの水を与えた
そうだ。
その姿は、本当に妹に詫びて欲しいように見えたらしい。

翌朝、明け方に三人で集合し、再び山奥の廃墟へと。
みんなかなり緊張しながら、部屋のドアを開けると、

・・・そこはもぬけの殻だった。

手錠は片方が洗面台の配管にかけられていて、身体の自由はきかない
はずだった。それでも、玩具の手錠。釘一本で簡単に開けられるのかも
しれなかった。

財布や携帯は取り上げてあったが、モーテルの目の前は旧道。
疎らとはいえ、地元の車の往来はある。
「逃げやがった」
先輩らは周りを探すのを諦め、車に戻ることにした。
その友人は遺影を脇にして、両手で木箱を持つと、声を上げた。
「えっ、何だこれ」

木箱の中に骨壷が入っているものだと、先輩は思っていたそうだが、
違ったそうだ。
「いや、ただの箱だよ。納骨は終わってる。びびらせるつもりでさ」
友人が白い布をとくと、蓋つきの木箱が現れた。
「中身はからっぽのはずなんだけどな」
蓋を開けると、中身はいっぱいの黒土が。
「なんだこれ」
箱をひっくり返して土を落とすと、拳大の塊が一つ出てきたそうだ。

先輩と友人が間近で確かめようとすると、鼻を突く異臭がしたという。
傍らにあった木の枝でつつくと、それはひからびたミイラのように見えた。

「これって胎児じゃねえーのか」
先輩と連れが顔を見合わせていると、震える声で友人が言ったそうだ。

「妹はあいつを連れてったのかもしれない」

二人がぞっとして友人を見ると、さらに言葉を続けた。

「遺書に書いてあった。あいつと子供と、三人で暮らしたかったって」



後日、先輩が語ったのは、多分、その友人がホストを殺したんじゃないかな、
とのことだった。


先輩も、その友人と連絡が取れなくなって、数年たつという。

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