[2230時]

10年前の自分が体験した話。

ある夏の終わり、自分の隣の家のおばさんが亡く
なりました。隣家は瓦屋だったのですが、おばさん
は屋根から転落して亡くなってしまったそうです。

その日は通夜が行われておりました。当時、自分は
浪人生活をしていて、まぁそれなりに夜勉強をしてい
たわけです。2230時ごろ、タバコが切れたのでちょっ
と買いに行って来ようと外へでました。自分の田舎は
東京近郊といってもかなりの田舎でして日が沈むと
まず明かりはありません。しかも家の裏手はお寺の墓
場なので人通りは皆無。

外へ出ると隣の家の提灯の明かりだけがぼぅっと光って
いましたが、御通夜など経験してみるとわかると思いま
すが、それなりに人がいて案外怖くは思わないものです。
実際、そのときも恐怖心などは抱きませんでした。少し
は怖かったですが。

さっさと買ってこようと自転車に跨り、その家の裏口を通っ
たとき、だれかが出てきました。周りに明かりが完全にない
ためシルエットしか見えませんでしたが、当然、私はお通夜
の手伝いの人だと思い、「こんばんわ、夜分遅くまでご苦
労さ・・・」

言い終わるか否か、その影はまるで流れるかのようにすぅっと
お寺のほうへ消えていってしまったのです。距離にすると40b
ほどでしたが、走ったというふうでもなく、歩いたというふうでも
ないんです。本当に音もなく、すぅっと。しかも、人が歩くスピー
ドよりはかなり速く、走るよりは遅い。

「え・・・?」と思うよりも早く、家に引き返しました。それからは
いやな感じがしていたのでその晩は早々に寝てしまいました。

翌朝、目覚めてもなにかいやな感じが残ってました。いやな感
じというよりも、不思議な感覚と言った方がいいかもしれません。
漠然とした『事故』のイメージが頭から離れないんです。そういう
夢をみたわけでもないのに。その時は「事故にあえば受験勉強
しなくてもいいわな」ぐらいにしか考えず、さっさと支度をして予備
校へでかけました。その日は1日中予備校でしたが、全ての授
業が終わっても事故のイメージは消えませんでした。

東京まで通っていたので地元の駅に着くころにはだいぶ遅くなって
いました。原付を走らせ、幹線道路を渡ると・・・光に包まれました。
考える隙間もなかったです。信号を無視した車にひき逃げされま
した。その時間が2230時・・・

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