[好奇心]

俺がハイソなマンションのベランダで、優雅な午後ティーを堪能していると、
上のほうから声がした。
何気なく耳を澄ますと、屋上で子供が何事か騒いでいるようだった。
『うるせーな』
そう思って無視しようとしたのだが、その話の内容は大声である事もあって勝手に耳に入ってくる。

『・・・でよ。ネコって高いとこから落ちても大丈夫なんだってよ』
『すっげー!すっげーよ、ネコ。タマが着地するとこみてー!』

おいおい、馬鹿ガキ。
ここは七階建てのマンションだぞ?
上を見ようとして身を乗り出した瞬間、物凄い悲鳴のような声がドップラー効果を残して
下に消えていった。

グシャ。

下では丁度暇な主婦たちが井戸端会議をしていたから、エライ事になった。
悲鳴と怒号。
屋上からは兄弟喧嘩の声。
俺の午後は不愉快なほど壊された。
それから少しして警察がやってきたが、俺は不貞寝を決め込んだのでどうなったか知らない。

しかし、翌日から夜になると猫の鳴き声が聞こえるようになる。
人が泣いているような、悲鳴のような、そんなネコの鳴き声だった。
其れが夜中続くと、マンションの住人はネコの祟りだと騒ぎ出した。
あの兄弟が原因不明の高熱で入院すると、罰が当たったと言う噂が出た。
怖がった他の子供達まで具合の悪くなる奴が出てくる。

しかし、それで終わらなかった。
猫の鳴き声はやまず、その鳴き声がするたびに子供が熱を出すようになった。
子供が熱を出すたびに、救急車が呼ばれる様になったのもこの頃だ。
子供は一様に、『ネコが・・・』とうわ言を言うらしい。
周囲では、何時からか『化け猫マンション』と言われる始末。
高価なマンションである事に対しての、やっかみもあったかもしれない。
だが、その噂は周囲に広まり、マンションからは引越しが相次ぐ。

管理組合は止む無く、御祓いを行う事に決めたようだ。
俺も珍しさもあって参加したが、坊さんが真っ青な顔をしていたのが印象的だった。
その坊さんは織田無道のようなイカツイおっさんだったが、マンション前に来た瞬間、顔色が変わった。
俺は丁度其れを見たので、印象に残ったのかもしれない。
他の人も『具合の悪そうな坊さんだね』等と話していたから、俺の錯覚では無いと思う。

御払いは何事も無く済んだが、その坊さんは交通事故で死んだと新聞に載っていた。
事故の日付けは、あの御払いの日。
つまり、寺に帰る途中に前方不注意のトラックに轢かれたのだ。
トラックの運転手は、坊さんが飛び出してきたと言っているらしいが、真相のほどはわからない。

入院した子供の家族は例外なく引っ越している。
さして大事には至らなかったようだ。
しかし、あの兄弟はこのマンションには帰ってこなかった。
いや、正確にはもう退院できないといわれているらしい。
原因不明の高熱によって、脳に障害が残ったという話を管理人から聞いた。
あの御祓いが効いたのかどうか判らないが、今では入院騒ぎは無い。

しかし、今でも時々猫の鳴き声を聞くと、今度は何処の子供が病院に送られるのか?
ふと、思い起こす事がある。

以上


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