[鳥居の下に佇む男]

@3年半ほど前の話。
今も同棲している彼女と、ドライブをしていた。週末だった。
夜の山の中を走ってたら、大きくて真っ赤な鳥居の下にうつむいて立つ人がいた。
先に彼女が気づいた。俺もじっと見た。多分男だと思う。
なんかその人のまわり全体が黒っぽかった。
(オーラをまとってると言えば分かりやすいかな)

A時間も夜中だし鳥居の下でうつむく黒っぽい人間なんて、どう考えてもおかしい。
すぐに俺と彼女は「絶対ヤバい。」と何か不穏なものを感じ取っていた。
そりゃ二人とも怖い話は好きだけど霊感とか全然ないし、もちろん体験したこともない。
ちなみに肝試しとか霊感スポットなんてのも絶対行かない。
 (それって死んだ人間への冒涜行為だと俺は思ってる)
でもあのシチュエーションは、そんな俺たちが「ヤバい」と思うほどリアルだった。
霊感のあるなしとか見える・見えないなんて、ああいう場合関係ねーんだなぁって今は強く思う。

B
雑談がすぎたので話を元に戻す。
その人を見つけて直感でヤバいと思った俺は
「速度あげて一気に前通るから、あんまり、いや絶対見るなよ」と彼女に言った。
彼女は顔が蒼白で、一言「うん」とだけ言った。
その時、立つ男をちらっと確認したのは、手前50メートル程度のところだった。
ざざっとブレるみたいにヘンにゆらゆらしてる。恐ろしい。絶対こいつは何かヤバいものだ。
すぐに目を逸らして、前、それもやや左前だけを見る。すると…


C
…参った。こんな構図になってるなんて。


    鳥居
      男
  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄←車の進行方向
| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| |  森
| |


簡単に図にするとこんな感じの急カーブの手前だった。
しかもカーブの向こう側は崖になっている。
つまり車を減速させなければ、あのカーブを曲がれないのだ。
加えて、道幅はけっこう狭い。つまり男の立ち位置が、運転席=俺側のすぐ外になる。
本当に、ガラスを隔てたすぐ外側だ。
立つ男の側を通るのに減速しなければならないなんて、本当にイヤだった。

D
とにかく減速し、横を通る。
すぐ横に男が見える。あんぐりと口を開けてる。本当に恐ろしい。
でも目は暗くて見えない…っていうか見ないようにした。全然動かない。
彼女は横で震えながら声をあげずにボロボロ泣いてる。
「目をつぶるなよ。前だけ見てな。」と小さく言うと、何も言わず頷いた。
カーブを通り過ぎるまでは可能な限り安全に気を配って車を走らせた。
そしてそのまま無事にカーブをやり過ごすことができた。
バックミラーで確認する。あれ、いない…


E
俺はそのまま山を下りるまで気を抜かずに、安全(でもなるべく急いで)運転を続けた。
隣の彼女は「なに?」「なんなのあれ?」「こわい」と泣きじゃくっていた。
もう大丈夫だと彼女と自分に言い聞かせながら、なんとか家まで帰ってきた。
途中何度も、車に乗り込まれていまいか後部座席をバックミラーで確認しながら…。


以後、幸いなことにヘンな体験は一切ない。
あのとき彼女が居てくれてよかった。
守るべき人が一緒に居なかったら、俺はパニックになってあのカーブを曲がりきれず、
崖から転落して死んでいたかもしれなかったから…


次の話

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