[叔父思いの姪]

前ページ

五分ほど走った場所に、去年姪と来た映画館が有った。
受け付け嬢に頼み、映画のパンフだけ売ってもらい、紳士服店に引き返した。

葬儀までの間の記憶ははっきりしない。
周りの肉親がばたばたしてるのに、俺にはする事が無かった事だけ覚えている。
葬儀業者の手配でセレモニーホールでの通夜が始まる前、義妹と少しだけ話をした。
「姪がいつもいつも『おにいちゃんに買ってもらったんだよ!』って見てたハム太郎の映画のパンフ、棺
に入れてやります」
見ると義妹の手にはぼろぼろになった、それこそ擦り切れるくらい読んだだろう映画のパンフ。
これを見た瞬間に、涙が止まらなくなった。
生まれて初めて、視界が涙で滲んで見えなくなっていく体験をした(今までは泣き出しは目を閉じてたん
だろうか?)。
買ったばかりの新しい映画のパンフと前売券を、一緒に入れてもらう為義妹に渡しながら、泣き続けた。

自分の子でも無いのに、今でも、ただただ喪失感しかない。
時間の経過で薄まるのかどうかも、分からない。
PHSに落したミニはむずの着メロは、聞けずにいるけども消せずにもいる。

いたる所で目に付くハム太郎見つける度に、姪の喜んでいた顔を思い出す。
で、その度にもう思い出す事しか出来ん事を思い知り泣いてしまう。

2月10日に有給休暇を取って、帰省した。
姪の四十九日に出る為に。

新幹線は、あっけないほどすんなりと着いてしまった。
家に入り、新しく買ったという仏壇の前へ。
仏壇の黒と、骨壷にかかった布の白さのコントラストで息が詰まる。
供えられた色紙の工作物。
聞かずとも姪の友達からだと分かる。
形は整っていないけど、姪のために一生懸命作ってくれたんだな、と感じる。
弟夫婦と少し話す。

姪の仏前にハム太郎グッズを供えようか、と数日前まで考えていて、
実際買ったけど、これを毎日見て生活するのは辛い、と思い置いてきた。
代わりに、知人のツテを頼んで、フラワーアレンジメントしてる方に、
ハム太郎に見えるようにしてもらった花の篭盛り(?)を持参した。
これを事故現場に供えたい、と伝え
「弟と義妹も、一緒に行かないか?」と誘った。

義妹は、事故以来あの公園に近づけない。
仕方が無い事だけど、四十九日をきっかけに立ち直らせたい。
そう弟は考えていたから、事前に相談していた。
姪の事は、忘れられるはずも無い。
でも、今は、憔悴し切った義妹を何とかしないと、というのが俺と弟の考えだった。

結局、弟夫婦と両親と俺の5人で公園へ行った。

家へ戻り、親父の実家へ、姪の遺骨を納める墓の相談に祖母を訪ねる。
祖母が10年も前に俺用に買ってくれた寺の墓地が有り、それを使わせて欲しいと頼む。
(田舎は面倒な事柄が多い)
祖母は快諾してくれ、寺との段取りもしてくれた。
月内には納骨できると聞いて、ほっとする。

その夜は、弟夫婦としこたま飲んだ。

姪よ、
お前は居なくなってしまったけど、
お前と過ごせた日々を、俺達は忘れないだろう。
今は痛みだけしか感じないけど、
時間が経てば楽しかった日々を思い出せる日が来るだろう。
そして、いつか
お前の弟か妹が出来たら、俺は同じ様に、映画に連れて行こうと思う。
霊とか来世とか信じないけど、
どうかそんな日が早く来る様に
お前の母さんを見守ってやってくれ。


次の話

Part104menu
top