[人間の匂い]

遭難ものでひとつ。

2年くらい前にオレの先輩が、一人旅で東北にいったんだけど
温泉宿から散歩がてら山道ブラついてたら
迷っちゃったんだって。
ちょっと外れただけなのに、宿に戻れなくなったのよ。
季節は秋だったんだけど日が暮れると、ひんやりするし
夜中になると震えるほど寒い。
落ち葉を毛布のようにして、斜面に横たわっんだよ。

山といっても無音ではなくて、虫の声がけっこううるさいし、
小虫が服のすきまから入ってきて、とても眠れたもんじゃない。
それでも寒いよりマシなのでガマンしていたらしい。
しばらくすると、月明かりの闇の彼方から足音がする。
「ザッザッザッ」
落ち葉がくずれおちたかと思ったけど違う。
熊でもない。
なんか一列に行進してくる感じ。
捜索隊か?死体を埋めに来たヤクザか?
とも思ったけど、この闇の中をライトも照らさないで歩いくる。
人間でもない。

気が付くと
虫の声がピタリとやんでいて、なんか空気がさらに冷えこんできた。
そして、かすかに聞いたらしい。
「ニンゲンの臭いがする」って。
くぐもった男(?)の声で、ハッキリとそうきこえたわけじゃなくて
「肉のにおいがする」
といったかもしれないし、単なる空耳か幻聴か、きこえたのは一度きり。
したら、あの行進がとまったんだって。
まぁその足音にしても、やっぱり、落ち葉がくずれおちててただけかもしらんけど。
で、仰向けに寝ているため、姿はみえない。
左頭上にいるらしいけど、人の気配はない。
だが左上の空気はピリピリと張りつめている。毛が逆立つくらい。


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