[無神経な親父]
ずっと昔、聞いた話です。 
たしか九州の人で、お父さんが不動産屋をやっていたそうです。 
そのお父さんが息子のために家を用意してあげたそうです。 
息子さんは絵描きか作家だったと思います。 
で、アトリエを見つけてやったぞ、と。仕事場はそこを使うといい、と。 
一緒に車に乗り、国道を走ると、横道に入っていきました。 
すると道の両側が竹やぶで、その間をずーっと走っていくと竹やぶが開けて、その真ん中に家が建っていたそうです。 
その家は見るからにぼろぼろで不気味で、息子さんは「ここはやめたほうがいい!とてもこんなところは使えない!」とお父さんに言いました。残念そうにしていたお父さんと、そのまま自宅へ帰っていきました。
その晩、寝ていると空を飛ぶ夢を見たそうです。夜空は晴れていて、綺麗な満月だったのですが、急に下降して、ざーっと竹やぶの間を飛んだそうです。 
「見たことがある。昼間に来たところだ。」と思っていたら月明かりに照らされた家の前、玄関にぽつんと立っていたそうです。 
何でこんなところに立っているんだろうと思っていると、横のほうの、庭に面している縁側のふすまが、すとん、と開いて、その中から浴衣を着た、ものすごくやせ細った中年の男が、ヒョコッ、ヒョコッ、と出てきてそのまま縁側から庭へ、ぽん、と降りたそうです。 
変な動きで、まるで操り人形みたいな妙な動きで、ヒョコッ、ヒョコッと彼の前を通り過ぎていきました。 
で、この男の形状がおかしい。 
まず異常なほどのなで肩で、すうっとした体つき。これは何だっ、てくらい不気味な形。ものすごい青白い顔色。 
その男がヒョコッ、ヒョコッと引き返して来て再び縁側に乗り、トントントンと行ってふすまがシャッと閉まると、そこで目が覚めたそうです。 
これは何かある!と父親を問い詰めたら「昔、首吊りがあった。」 
それは首吊りの首だったんでしょうね。 
なで肩だと思ったのは、異常に伸びた首だったんだと、そのとき思ったそうです。 
次の話
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