[消えた動物と浮浪者]

これは俺が小学生の頃の話です
当時俺が住んでいたのはとんでもない田舎で
夜になると明かり一つつかなくなるようなところでした
そんな田舎の農村に、いつからか妙な浮浪者が住み着きました
その男は年齢は五十代半ばほどで、190センチ近くあるような
大柄の男でした
口元にやたら唾をためているので、村の人達は彼を気持ちわるがって
あまり近付きませんでした

その男は川の側にテントを張りそこで暮らし始めました
村の大人は彼を避けましたが、子供達は好奇心から彼のテントに
探険に行くようになりました
その中には当時の俺もいて、彼のテントに探険に行くのは
田舎の何も無いところで暮らす子供にはかなり刺激的に思いました
子供達六人ほどでテントに行くと、男は巨体を揺らせのそりと
テントから出てきました
最初はその大きさに驚きたじろきましたが、話してみると非常に面白く
すぐに男は俺ら子供達の人気者になりました

男を避けていた大人達も、彼が村の畑仕事などを積極的に
手伝うようになってから男を見直し、食べ物などを彼に分けるように
なりました
彼が自分でしげあきと名乗ったので、村の人は彼をしげちゃんやしげ などと呼ぶようになりました
こうして村に来てから二週間ほどで男は村に馴染んでいきました

ところが男が村に来た頃からおかしなことが起こり始めました
俺の住んでいた村は動物好きが多く、村の家のほとんどは
犬や猫などを飼っていたのですが
男が村に来た頃から村の人が飼っている犬や猫などが突然いなくなる
ということが起き始めたのです
日が経つにつれ一匹、二匹といなくなり、一ヶ月ほどで
行方不明の動物の数は十匹以上になりました
これはおかしいということで、村でこのことについて
会議を行うことになりました

その会議の中で真っ先に疑いがかかったのは、やはりあの男でした
男が来た時期と、動物達が消え始めた時期が重なるので
疑われるのは当然のことでした
中には「しげが夜中に犬を抱えて走るのを見た」とか
「しげのテントの辺りから煙が上がり、動物を焼く匂いがした」などの
目撃談も出てきて、男への疑いはやがて確信へと変わっていきました
翌日村の人数人で男のテントに行き、そのことを問いつめると
男は下を向いたまま口元に唾を溜め、「知らねぇ…知らねぇ…」と
呟きました


村の人達が知らないワケないだろ、お前しか考えられないと
問いつめても、男はうつ向いたまま「知らねぇ…」と呟くばかりでした
そのことがあってから数日で男はテントごと村からいなくなりました
それと同時に、動物達が消えることもパタリとなくなりました
結局いなくなった動物達は戻ってこず
次第に村の人達もこの話をする人はいなくなりました
以上、一部聞いた話もありますがだいたいこんなとこです
今でも実家に帰ると、このことをよく思い出します

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